研究課題/領域番号 |
23520430
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
片渕 悦久 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (30278147)
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研究分担者 |
鴨川 啓信 山口大学, 経済学部, 教授 (60314788)
橋本 安央 関西学院大学, 文学部, 教授 (60300274)
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キーワード | 物語更新 / アダプテーション理論 / メディア横断 / 物語論 |
研究概要 |
アダプテーション研究とメディア横断的物語論の方法論的統合をめざす本研究は、広範囲におよぶ物語創作・物語消費・二次創作を包括する「物語更新理論」の提案をその最終目標と定めている。この目標を達成するために、研究2年目にあたる本年度はさまざまなメディアを通じて表現される物語作品、およびメディア論から認知物語論にわたる物語関連の理論書等を初年度に引き続き幅広くく収集し、それらを丹念に読解(鑑賞)し、物語言説のメディア的・文化的特質について考察をおこなった。 本年度は、初年度の研究成果をふまえ、欧米の物語理論の日本での妥当性を検証しつつ新理論構築の可能性を検討し、また基本的文献の読解により研究内容の拡充をめざした。収集した資料の分析をとおして、研究対象とする物語のメディア横断現象の地域文化的特質と、同時に既存の物語論にみられる地域文化性について考察することができた。こうした考察をふまえ、「物語更新理論」の理論化作業を継続しておこなったが、残念ながら、これまでのところ新理論の仮説を構築するところまではいかなかった。 具体的な研究成果は、研究代表者片渕の、「ゴーレム伝説とアメリカン・スーパーヒーロー」、「マグマ大使はゴーレムか?」の2本(いずれも『ゴーレムの表象―ユダヤ文学・アニメ・映像』(共著)所収)、研究分担者鴨川の研究論文「39×X―『三十九階段』と増大する物語―」、同橋本の研究発表「メルヴィルの短篇をしみじみ読む―精読の冒険2―」があげられる。 もうひとりの研究分担者橋本は比較文学の分野において、連携研究者の飯田はジェンダー理論、同小久保は映像論の分野で、また研究協力者の武田は物語論を土台として、それぞれの専門領域で資料の収集と研究論文等執筆の準備作業を昨年度に引き続きおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物語更新理論の仮説を構築することが本年度の目標であった。残念ながら具体的な仮説の提示までは至らなかったが、本年度の達成度としては、おおむね順調に進展しているといえる。ただ、アダプテーションやリメイクなどの物語更新を現象として観察することは簡単だが、物語が表現されるメディアごとの特性や、物語が生産・消費・再生される文化の特性等を考慮に入れていくと、単純には理論化できないことがわかった。したがって、本年度の研究実績として発表した研究論文や研究発表にさらなる各論の積み重ねを通じて、メディア的・文化的特性と普遍的物語更新のありようを融合させた理論化の道を模索するめどは立ったと判断したい。
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今後の研究の推進方策 |
研究3年目は最終年度にあたり、具体的作品研究をとおした新理論の提案をおこなうことを最終目標に定めている。これまで2年間の研究によって得られた成果を総括し、それらを最大限に生かした当該研究分野における包括的な「物語更新理論」の提示をめざしたい。少なくとも理論化の土台となる仮説を提案し、それにもとづいて、物語更新理論序説のアウトラインにあたる部分を構築することだけは少なくとも達成しておきたい。そのためにも、より発展的かつ包括的な研究組織の結成をめざして、たとえばインターネットのウェブ上に「物語論研究会」(仮称)を立ち上げるなどの具体的方策も検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の継続的な発展・充実をはかる上で、不可欠と判断される部分の研究費の執行を考慮したために、実際の執行額は当初予定していた見込み額と異なることになったが、研究計画そのものに変更はなく、前年度までの研究費もふくめ、当初の予定どおりに計画を進めていく。
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