研究課題/領域番号 |
23520433
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
戸崎 哲彦 島根大学, 法文学部, 教授 (40183876)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 中国 / 唐代 / 柳宗元 / 増廣註釋音辯唐柳先生集 / 南宋刻本 / 四十五巻本 |
研究概要 |
本年度は基礎資料の調査と収集及びそれらの整理を中心としたが、一部について書誌学上の初歩的研究に着手し、重大な発見と成果があった。1、今日に伝わる宋刻柳集完本には詁訓本・百家注本等の四十五巻本と音辯本の四十三巻本の二系統があり、前者は穆修・沈晦の手を経たものであるが、後者の成立は明確ではなく、三十巻本との関係を説く研究もある。しかし今回の調査と比較研究によって音辯本の南宋刊本およびその抄本の現存が判明した。いずれも四十五巻である。四十三巻本は『非国語』二巻を別集として扱っているが、四十五巻本は正集に入れて巻四四・巻四五として編次し、その上で『外集』上下・『附録』を備えている。つまり沈晦の四十五巻本であって三十巻本の系統にはない。2、南宋音辯本四十五巻本の首巻には劉欽「序」があり、怡堂劉氏によって諸注が編輯され、淳祐九年(1249)に刊刻されたことが知られる。怡堂劉氏は建陽麻沙の書坊であろう。その刊本・抄本は宋諱を「敦」まで避けるから、底本は光宗(惇)・紹煕年間(1190‐1194)の成立である。3、御璽「乾隆之寶」をもつ清内府本を南宋刻本とするのが定説であるが、それらは四十三巻本であり、かつ劉欽「序」はなく、更に文字に至っても南宋四十五巻本と異なる部分がある。異文は総じて四十五巻本の方が正しい。4、南宋音辯本四十五巻本の抄本は同刊本以外の諸本を用いて補写し、校注を加えている点において極めて貴重である。その一つに南宋刻本『音註唐柳先生文集』、今日の佚書がある。5、南宋音辯本四十五巻本の刊本は版式・編次・避諱等諸特徴において抄本と同一であるが、明らかな誤字を除いて異なる点がある。抄本所拠本と同版ではなく、覆刻の関係にあることも疑われる。 今後、柳宗元研究において音辯本は四十五巻本が使用されるべきである。本研究成果の一部は今年開催される唐代文学国際学術研討会で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は『柳宗元集』のテキストに関する刊本・抄本等の基礎資料の調査と収集及びそれらの整理を中心として予定していたものに近づいている。しかしその量は多く、全て柳集するのを待たずに、すでに入手でき、処理が可能なものから、初歩的研究に着手して行った。 その結果、南宋音辯本について従来の説とは異なる重大な発見があった。そのために宋本と考えられていた四十三巻本と比較および元・明間の逓修本の特徴との関係に及ぶ音辯本系統の研究に重心を置くことになってしまった点において当初の計画とやや異なるが、これは不本意な結果ではなく、学界の定説を覆す大発見であって、むしろ更にこの方面に関する研究を深める必要がある。今年度も可能な限り、音辯本の研究も加えて行きたい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は主にテキストの対校校勘作業を推進する。具体的な法等と階梯は、 1、昨年度において調査・収集できなかった資料(多くがテキスト)および昨年度の調査。研究において更に必要であると判明したものを加えて、調査・収集を行い、すでに収集済みのものについては対校作業を行い、さらに諸本の関係についての解析に着手する。2、我が国および中国に残存する永州三〇巻本と対比と特徴に関する研究に着手する。3、文安礼・張敦頤等、すでに宋人の説に見える異同に関する研究に着手する。その原因の重要な一つとして使用テキストの相異が考えられる。4、音辯本を含む、その他の宋人の諸注に関する研究。三〇巻本を使用しているものの存在が予想される。5、同時に音辯本の宋・元・明間の諸本の関係についても研究を行う。それらの特徴が顕著に現れる部分(巻・葉)を選定して詳細に対校し、その結果を示す一覧表を作りたい。6、これらの推進過程で音辯本に見られるような重大な発見があった場合はそれに重点を置く研究にシフトしていく。 研究成果は昨年同様に、随時、論文・学会等で発表して行く。一部は今年8月に開催される唐代文学国際学術研討会で発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は昨年度において未だ調査・収集に及んでいない資料(主にテキスト)、および昨年度に改めて調査・収集が必要と判明したものについて、主に充てる予定である。具体的には版本・抄本を主とする資料のコピー、マイクロフィルム作製、およびそのための国内外における旅費が大半を占める。また、昨年度の経験に照らして、必要な資料は膨大な量に及び、そのコピーが許可されたものについても必要個所を決定するのに現物を見た上でも初歩的な対校作業が必要であり、長時間を要することが十分予想される。中国国家図書館や台湾の国家図書館・故宮博物院等に所蔵の善本でコピーが許可されるのは、一般に全体の3分の1以下であった。中にはマイクロフィルムがあってもコピーできないものもあり、それらは単純な作業ではあるが、一葉一字ごとに当たって行くしかない。その諸作業のためには補助が必要であり、これにも相当の経費を充てなければならない。また、今年8月に中国ウルムチで開催される唐代文学国際学術研討会に参加する予定である。
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