研究課題/領域番号 |
23520433
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
戸崎 哲彦 島根大学, 法文学部, 教授 (40183876)
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キーワード | 金沢文庫本 / 增廣註釋音辯唐柳先生集 / 蓬左文庫本 / 柳宗元 / 劉禹錫 / 音註唐柳先生文集 / 永州本 |
研究概要 |
1、蓬左文庫現藏、金沢文庫旧蔵『增廣註釋音辯唐柳先生集』(淳祐九年1249序刻)は、正和元年(1312)破衲聰達(1280-?)による鈔本であるが、当時金沢文庫に所蔵されていた『柳集』諸本を用いて校合し補抄している点においても極めて貴重である。 2、その鈔本の校注の形態には数種類あるが中でも「イ」、一本を示す例は約220か所に上る。当然それらの文字は全て音辯本と異なるが、伝存の詁訓・百家註・五百家註・重校添注・世綵堂の諸本と比較した結果、一致するものは約3分の1、また重校本の註文中の「一作」と同じものはその半分に過ぎない。この「イ」本は劉禹錫原編三〇巻本の系統にある永州刻33巻本であると推測される。その根拠は、(1)永州本は乾道元年(1165)郡庠刻本と嘉定元年(1208)補刻本があり、いずれも残巻残葉ながら北京図書館と静嘉文庫に現存する。両本は一部重複しており、合わせても残存する部分は三巻ほどであるが、それと音辯本所収の作品との間で金沢本の校異「イ」と重なるものは計15か所あり、全て永州本と一致する。一方、詁訓本等と一致するものは僅か3例に過ぎない。(2)15例の内、乾道刻本と嘉定刻本で異なるものが1例あり、「イ」は嘉定刻本と一致する。(3)嘉定刻本は静嘉文庫であるが、それは金沢文庫旧蔵のものである。 3、聰達が用いた異本の中には『音註唐柳先生文集』があり、これによって巻2で「今體三賦」を補足しており、今日知られていない一本として極めて貴重であるが、これは沈晦編45巻本の「外集」に纏めてあり、また永州本の「外集」には音辯本には未収の作品3篇があるがこれらは補遺されていないから、音註本は30巻本の系統ではなく、「イ」本とは異なる。音註本は註釈本であり、永州本は無注本である。 したがって金沢文庫旧蔵音辯本中で校注「イ」を有する作品に拠って三〇巻本の原形に迫ることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
入手および実見(マイクロフィルを含む)の可能な鈔本・刊本および宋から今人にいたる著録によってテキストの対校、系統の解明を進めて行き、前年度の大発見、つまり『增廣註釋音辯唐柳先生集』43巻本が45巻本であって通行の詁訓本等、沈晦編45巻本系統に属し、その鈔本が蓬左文庫が蔵されていたことによって方針にやや修正を加え、音辯本と諸本と鈔本および校注等とを比較することに重点を置いた。その結果、上記のような30巻本系統である嘉定間永州刻本による校注という重大な発見があった。 その成果である、蓬左文庫蔵鈔本と北京大学蔵刊本の45巻本二種の特徴および北大蔵本にない蓬左文庫蔵本の『柳集』版本研究上の史料的価値について、一部は2012年8月の唐代文学国際学術研討会で発表するとと同時に一部は国内の雑誌に発表し、またその後の研究成果を踏まえた論文を中国の学術雑誌に投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって『增廣註釋音辯唐柳先生集』の価値が明白になったが、43巻本の通行本は13行本であって一部には45巻と同じ12行本が現存(北京国家図書館・台湾故宮・上海図書館等)しており、かつ『天禄琳琅書目』等清人や民国の著録では宋本とされる。今後はこの宋本43巻本と45巻本の関係、さらには43巻13行本との関係について研究を深めて行き、また、北京国家図書館および静嘉文庫に蔵する永州本との関係、それと先に明らかにした聰達鈔本に見える「イ」異本の約220か所との関係、潘緯所用の「建本」との関係について解明することで、研究を進めて行く。 それらの研究成果は、今年9月に中国晋城市で開催される柳宗元国際学術研討会で発表する予定であり、また国内外の雑誌へも投稿するつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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