研究課題/領域番号 |
23520436
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
阿部 泰記 山口大学, 大学院東アジア研究科, 教授 (40091227)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 宣講 / 聖諭 / 漢川善書 / 教化 / 娯楽 |
研究概要 |
1.伝統宣講書の調査研究 大連図書館において『萃美集』五巻などの伝統宣講テキストを収集した。中国科学研究院文学研究所には清代の残本を蔵している報告があり、上海図書館にも単行本を蔵しているが、完本はこのテキストである。民国本であり、冒頭には聖諭宣講規則はなく、物語性の強い内容となっており、娯楽性を重視した現代の漢川善書の前身として位置づけることができることを検証した。中興大学主催の「話語的流動」国際学会において発表した「中日宣講聖諭的話語流動」(2012年3月17日)の中で述べた。このほか、山東の『宣講宝銘』、河南の『宣講管規』、雲南の『千秋宝鑑』などの宣講資料を収集して論文として発表しており、因果応報をテーマとする初期の聖諭宣講の形態を明らかにした。2.漢川善書の調査研究 2012年春節に漢川市に赴き、漢川善書『販馬記』等の上演を取材した。『販馬記』は継母の虐待に発する善悪の対立をテーマとするドラマであり、善堂が主催する聖諭宣講において講じられた因果応報故事ではなく神明は登場しない。これは聴衆が宗教性を必要とせず娯楽性を求めていることの証であり、出稼ぎに出て春節に帰郷する村民が団らんのひとときを過ごす大切な芸能となっている。善書の作者は老芸人で、国家級芸人に指定され、グループのメンバーも固定して若いリーダーを中心として今後の発展は約束されているように感じられた。指導機関である漢川市文化館の館長も交代して新しい出発を始めており、毎年の進展が期待されることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.宣講の歴史については、大連図書館の蔵書『萃美集』五巻の存在を明らかにすることによって、宗教的なものから娯楽的なものへと展開すること、現代の漢川善書が娯楽性を重視するに至った経緯を把握することができた。2.宣講活動の実態について漢川市文化館と連絡をとり現地調査が実現し、春節には村民の娯楽芸能として重要な役割を果たしていることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
1.現在では四川、湖北、雲南、河南、山東などの宣講書を収集してその特徴を分析してその歴史的変遷について推測できる段階に至ったが、さらに収集を継続し、宣講の歴史を具体的に明らかにしていく。2.近現代の宣講活動について漢川善書を対象として調査を行ったが、さらに範囲を拡大して、湖北の「湖北大鼓」、湖南の「湘北大鼓」、広西の「宜州山歌」などを調査していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.さらに多くの宣講書の情報を収集して全国的に宣講が行われていた事実を明らかにするため、資料費を使用する。2.湖北、湖南の宣講活動を調査するため、旅費を使用する。3.前年度は謝金を他の経費からあてることができたため残額22,039円が生じた。これを資料費などに使用する。
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