本研究では、身体と性を起点に近現代日本思想史を再構築することを目指し、三度のシンポジウムを開催し、また研究発表や論文執筆を行なった。円地文子や中上健次、折口信夫といった、近代にあって「前近代的なるもの」の息吹を体現した作家・研究者たちのテキストを通し、これまで注目されなかった「被差別と性」、「仮面と性」の地平を発見した。円地が能面への解釈から生み出した「女の家」の物語、中上の「兄妹心中」への固執ともうひとつの路地・泉州南王子村、折口が描いた翁と女猿楽の造形―。日本の古層文化との緊密な触れ合いのなかで生まれた作品群が、近代日本のセクシュアリティの特質を鋭く照射していることを明らかにした。
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