研究課題/領域番号 |
23520446
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
牛 承彪 関西外国語大学, 国際言語学部, 准教授 (20460842)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 歌謡 / 大歌 / 民間文学 / 歌師 / 歌垣 / 中国貴州省 / トン族 / フィールドワーク |
研究概要 |
23年度の研究計画に従って現地調査を実施し、以下の面において大きな成果を挙げることができた。 1、歌師が生涯に渡って、どのように歌の伝承とかかわってきたか、4人の歌師のインタビュー調査を通して明らかにした。関連内容の文字整理はすでに終了している。 2、歌師がトン族の村社会にどのようにかかわってきたか、インタビューと現場観察を通して明らかにすることができた。トン族は宗族を中心に村を形成して暮らしているが、歌の発達はこのような彼らの生活形態と大きく関係していて、日本古代の「歌垣」習俗の背景を考える際にも大きなヒントを与えてくれる。中国においてもこの点について言及した研究はまだ見られない。 3、現地調査は歌師を対象にしているが、背景となる村の環境、村の中に点在する伝統的建造物、石碑、絵画なども視野に入れて、考察・記録を行ったので、この作業は民俗誌を作ることでもある。民俗学を含め、各分野の研究に第一次資料を提供することになる。関連内容の文字整理はほぼ終了している。 4、歌師たちはいずれも高齢のため、歌師が伝承している歌の採録に力を入れた。これをトン語、中国語、日本語の三つの言語に文字化する作業も進めている。このように系統的調査をし、文字化する作業はこれまで行われていなかったので、第一次資料として価値が期待できる。 5、これまで、生活の中に根差しながら伝承されてきたトン族の歌についての調査と詳細な記録は少なく、多くは調査者のために、あるいは舞台の上で歌われたもので、本来の形ではない。この研究ではトン族の年中行事について現地調査し、本来の伝承現場及び歌師の役割について観察することができた。これも日本の研究者はほとんどなされていない作業である。これからの研究に大きく寄与することができると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究はすべて計画通りに進み、予想した成果をおさめた。 調査地の年中行事が行われる時期に合わせて現地調査を行ったため、現場の観察から得たものは多くあり、この研究を内容豊かなものにしてくれることが確信できる。また素質のいい協力者の協力を得ており、研究成果にも大きな期待をするようになった。
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今後の研究の推進方策 |
最初の年度の踏み入った調査で、調査地のほか、トン族が居住する地域全体の歌師、および歌伝承の基本状況を把握することができた。したがって、観光化が進んだ地域とまだ伝統的な生活形態が多く保たれた地域に分けて、研究調査を進むことがより合理的で、効率的であると思う。今後は次のように進めていきたいと思う。 1、研究計画通り、黎平県岩洞鎮を重点とし、歌師社会の構造や歌習俗と関連する信仰など、さらに調査を深めることにする。 2、研究計画を実施するにあたって、最後の25年度に補足調査を実施し、24年度は23年度と同じく本格調査を実施する。 3、同じ黎平県黄崗村はトン族歌の伝統がよく保存された地域であり、岩洞鎮と異なる特色を持っていて、いい対照になるので、24年度の調査地に入れる。 4、調査終了後の文字整理はすぐに行い、研究成果を研究会や学会で積極的に紹介し、論文の形にまとめて発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度の現地調査において、岩洞鎮の歌師が伝承する歌は豊富であり、その採録、文字起こし、中国語への翻訳などの作業にさらに20万円ほど必要であることがわかった。作業がすべて完成できるのは24年度であり、24年度に謝金を支払うことになるので、23年度の研究費を節約することにした(2回目の現地調査に日本からの参加者は代表者1人にし、文献資料の購入を後回しにするなど)。それで、23年度の研究費を24万円ほど残すことができた。24年度には、この部分の費用をトン語の文字起こし、中国語・日本語への翻訳に使用し、その他の研究費は24年度の計画通りの研究調査に使用することにする。
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