研究課題/領域番号 |
23520451
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研究機関 | 長崎純心大学 |
研究代表者 |
石井 望 長崎純心大学, 人文学部, 准教授 (50341558)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 蘇州 / 二十八調 / 尺八 / 正倉院 / 昆劇 / 昆曲 / 音韻 / 曼荼羅 |
研究概要 |
明朝「中州全韻」考訂の預備作業として、崑曲の字聲が通説の八聲でなく實際は七聲である證據を集め、「中州全韻以下崑曲無陽上聲辨」(全)として公刊した。また明末清初の「北西廂訂律」の古樂譜を含めて「落梅風」曲牌のメロディーを求めた舊作論文「落梅風求腔」(全)を大學紀要にて公刊した。「落梅風」は元曲(北曲)曲牌の一つであり、元曲メロディー復元が一歩前進したことを示す。以上いづれも前年に一部分のみ紀要に掲載してゐた論文を全文掲載したものである。また崑曲の歌譜の遺存情況を探求した成果を「上海圖書館藏崑曲工尺譜目一」(王宏撰、石海青訂)として公刊した。この目録は今まで世に知られなかった新消息を多く含んでゐる。また崑劇の歌唱法がイタリア歌劇の起源となった可能性を論じ、「意國歌劇發[ジン]於耶蘇會士西傳崑劇説」と題して公刊した。メロディーよりも歌詞の聽き取り易さを重視する價値觀などに於いて兩者は類似してをり、且つイタリア歌劇草創期は丁度明朝の海禁が緩んで西洋の貿易商人が寧波などに居留し始めた數十年後である。確かな史料が有るわけではないが、山水畫の西傳と同樣に必ず誰かが立てるべき新説であり、今後の議論の資として極めて重要である。 また漢文圏に於ける崑曲といふ文藝の位置づけを定めるための副産物として、漢文圏そのものの文明史的位置を論じて「大印度小チャイナ説」として公刊した。また崑曲の匀孔笛に類似する孔位の琉球笛を探求する前提として、どこからが琉球國でどこまでが明朝清朝であるかといふ根本問題に逢着し、副産物として「和訓淺解・尖閣釣魚列島漢文史料」を公刊した。これは同時に尖閣領有權を證するためにも多くの新見解を含む書である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
崑曲の音階を研究するために笛のCTスキャンを相當程度まで進めることができた。その成果は長崎純心大學「純心科研論文集」第一號に收める下の諸報告として公刊した。 「測笛記略」石海青著。「曲笛裏的韻味」周曉著、石海青譯。「笛事人事略述」李殿魁著、石海青譯。「醫療用CT機を以て崑曲笛を撮影する」石海青・久永眞一郎著。「齒科用CTスキャナーを以て崑曲笛を撮影する」石海青・冨永尚宏・田中美香著。「崑曲博物館藏の傳字輩匀孔笛をCTスキャン撮影する」石海青著。「三次元非接觸計測器を以て崑曲笛を撮影する」石海青・吉井康史著。「文化財用レントゲン機を以て崑曲匀孔笛を撮影する」石海青著。「家庭用スキャナーで笛孔を撮影する」石海青著。「東芝CT機を以て崑曲匀孔笛を撮影する」石海青・肥後陽介・吉田竜也・森下諒一著。「東芝CT機(福島)で崑曲笛を撮影する」石海青著。
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今後の研究の推進方策 |
蘇州・臺灣などに藏する崑曲匀孔笛の共鳴周波數を計測し、同時に機器で吹奏する作業を繼續する。歌譜のメロディーの分析も繼續する。更に餘力が有る場合には明末范善臻「中州全韻」を考訂して全容を明らかにする。「中州全韻」は各地に寫本として藏せられるが、影印流通してゐるのは一種のみなので、諸本を蒐集する。そして范善臻が底本として使用した明朝の章黼「韻學集成」及び葉以震「重訂中原音韻」と、これら諸本とを對比し、各音節及び例外音を逐一考訂し、全體の韻譜を作成することを目指す。中州全韻の聲調は陽上聲を缺く七聲だが、中州全韻から派生した清朝の沈乘麟「韻學驪珠」・王[シュン]「中州音韻輯要」・周昂「新訂中州全韻」の三書では陽上聲を取捨相半ばする形で取り入れ、八聲とも七聲ともつかぬ不安定な體系となってゐる。これは三書が切韻系統及び土着古語の影響を受けたためであり、崑曲字音體系が陽上聲を排除するのとは方向性が異なる。崑曲の規範は中州全韻の七聲であることが、各音節の對比により明瞭になるだらう。
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次年度の研究費の使用計画 |
蘇州・臺灣などから笛の專門家を招聘し、CTスキャン撮影を行なふ。蘇州等に出張して古樂譜・古韻書を蒐集する。
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