臺灣の國立中央大學の戲曲研究室の主宰者洪惟助教授らを招聘し、同研究室所藏の貴重な崑曲笛二管をCTスキャナーで撮影した。二管は傳字輩(二十世紀前半に活躍した崑曲俳優群)に屬する故王傳キョ[艸渠]氏及び故華傳浩氏の用笛である。王傳キョ氏の用笛は約九十年前の製造で、現存する崑曲均孔笛としては最古に屬する。また華傳浩氏は名優としての價値も高い。 CTスキャン實施過程には樣々な困難を前年度までに經驗したが、本年度の撮影ではほぼそれらを克服し、管樂器のCTスキャンの模範的方法及び實際上の要注意事項を會得することができた。今後他研究者が他種の古管樂器をCTスキャンする際にその智慧が活かされる筈だと自負してゐる。3Dプリンターの發達により、獲得データをもとに精密な複製品を製作できる日も遠くなからう。 同時にまた、上述二管の共鳴周波數を計測し、機器吹奏計測も行なった。前年度までに得た他笛の計測數値と併せて今後考察を加へて公表することとならう。 平成二十一年に澳門大學に於ける學會で「詩餘浪淘沙入劇考」を口頭發表し、崑曲「浪淘沙」のメロディーがかなりの古さであることを論じたが、蒐集した樂譜例だけでは全て網羅してゐたわけではなかった。本年度の研究で網羅につとめ、澳門での舊作を補訂して完成を見た。本年度末刊行の「純心科研論文集第二號」にこれを收めたが、澳門大學からも完成版を同大學刊行預定の論文集に再録するやう請はれてゐる。近く掲載刊行されるであらう。 崑曲が長崎に傳來したことを探究するうち、大浦天主堂附設羅典神學校(重要文化財)に藏する禁教榜が貴重な唐船入港時用の遺物であることを發見し、本研究の副産物として「南蠻醜類榜―唐館前史から明治の吉利支丹まで―」を公表した。本年度九月に勉誠出版『長崎東西文化交渉史の舞臺、明清時代の長崎』に掲載された。長崎學の粹を集めた論文集として大きな影響力がある。
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