研究課題/領域番号 |
23520462
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
有働 眞理子 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (40183751)
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研究分担者 |
高野 美由紀 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (70295666)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | オノマトペ / 知的障害 / 対話促進 / ジェスチャー / 韻律 / 会話分析 / 特別支援教育 |
研究概要 |
コミュニケーションに困難な課題を抱える子どもの対話能力育成支援のためには、対話が活性化する手がかりを得ることが肝要である。本研究では、言語学・発達科学・教育実践学の学際的な観点から、言語表出の音楽性と身体運動性に注目し、特別支援教育の現場において具体的にどのような対話場面が発生しているのか、その中で特にオノマトペ的な対話表現がどのように運用されるのかについて、実証的に観察・分析する。 知的障害児との対話においては、会話参与者の言語知識の基盤に落差があり、障害を持たない参与者に解釈・表現の負荷が高くなる中で、どのように対話応酬のバランスが解決されるかが大きな課題となる。本年度は、特別支援学校の音楽療法の授業において、どういった対話行動がきっかけとなって生徒の反応を活性化するのかを中心に、授業観察を通して対話活性化の事例を収集した。 また、申請計画に則り、平成23年11月には、英国の養護学校施設の見学を実施した。異なる特別支援教育体制において、オノマトペ等の身体性表現が日本語とは相当異なる様相を示す言語を介して、知的障害児と健常教師の対話がどのように図られているかを観察するために、教育事情についての情報収集を行い、交流の機会を今後持つための出発点を構築できた。 初年度の成果発表については、障害児童の問題行動に対する教師たちの肯定的な受容の様子を、平成23年9月社会言語科学会において、さらに、オノマトペ表現と身振りについての分析について、平成24年3月発達心理学会において、いずれもポスター発表の形式で行った。また、学術成果の社会貢献還元に向けて、3月の音楽療法授業の観察成果を基に、オノマトペ表現を身振りと共に活用した、障害児童への生活指導の教材開発の準備・検討を開始したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者・分担者らは、これまでも、特別支援学校の様々な授業の見学を行って来たが、本プロジェクトにおいては、オノマトペ表現運用事例も含めて、音楽性のより高い発話の出現を予測し、学童クラスと成人クラスの両方の音楽療法セッションを、数回にわたり見学した。種々の音楽療法の中でも、器楽演奏だけでなく、発話行動に歌が豊かに組み込まれるスタイルを採用している講師の授業を選択し、種々の活動を展開する際にどのような言語的働きかけが行われているか、さらに、参加を促すために教師たちがどのようにインタラクティブに障害児・者と関わっているかを観察した。 児童と成人の各4セッション、計8セッションの観察を通して、全体を統轄・主導する主担当講師と、一対一で対応する個別対応教師たちの間の、重層的な教師間発話が授業の場の活性化に重要な役割を果たしていることを示唆する場面やエピソードが抽出された。また、楽器を奏でる実演提示において、オノマトペ的表現が音楽的に表出される観察事例も得られた。見学時期が年度末にかかったため、エピソードの詳細な分析は次年度(平成24年度)の課題として引き継がれたが、重要な分析事例収集の目標は達成できた。 さらに、歌を活用した発話が数多く収集されたことで、研究代表者・分担者らに、研究成果を教育現場に還元するための有効な方法について、企画発案を促すことにつながった。 英国の養護学校施設見学については、個人情報保護の運用に大変厳しい制約があり、詳細な談話分析事例のための映像資料記録は得る事ができなかったが、支援の背景状況についての有益な参考情報が多数得られた。さらに、思いがけなく臨時に、ロンドンの日本人学校の障害児支援の様子を見学する機会も得られ、今後の世界的な視点を携えた研究の展開には有益であったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
音声発話の音楽性や身振り・ジェスチャーが対話促進に貢献する状況を、学校教育的文脈に位置づけられた談話事例を通して観察・分析し、その成果から得られた対話促進の手がかりを活用した教材開発につなげるという、本研究プロジェクトの当初の目標を維持する。そのために、2年目となる平成24年度においては、初年度で収集された事例について、音響分析や映像分析を組み込んだ、マルチモーダルな談話分析と教材開発を、同時進行で進めたい。 特に、ELANなどの既存の分析にツールに、歌的な発話の諸相を記述出来るような、音符様の記述方式を創出して、よりきめ細かなプロソディや発話リズムの記述が可能になるよう、新しい記述手法の開発に取り組みたい。現在社会言語学的な研究で広く採用されている会話分析の記述においては、音声学的、音楽的な観点から言えば、言語の韻律情報を詳細に記述するツールがやや不足しており、新たな記述方法の開発が必要な状況である。韻律情報を組み込んだ談話分析は、論文、学会発表等の成果発表の形にまとめる。同時に、国際学会発表を最終年度に計画しているので、関連国際学会での学術情報収集も実施したい。 教材開発については、企画打ち合せ、検討課題調査、実演収録、編集、加工など、時間と手間がかかるので、年度早期に取り組みを開始し、研究協力者となる音楽療法講師との研究打ち合わせ活動を定期的・計画的に実施して行く。流れとしては、音楽療法セッションについての意見・情報交換を通して、どのような教材作成が有効かを議論し、年度前半のいずれかの時期に収録を行い、学校等で使用可能な形に教材化し、実験的に活用していただける教育・福祉施設に次年度中に配布したい。‘作って終わり’ではなく、そこから学術研究や教育支援のさらなる手がかりを得るステップの一つと捉えており、社会貢献と学術研究の進展をインタラクティブに進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度に収集した映像資料の処理のために、映像処理や音声記録・分析のための各種ソフトを購入することが必要である。研究打ち合わせや各種プレゼンのために、モバイルツール(各種モバイルPC・音響関連機器)も必要である。研究動向調査のための文献購入(言語学、発達科学、教育学関連の和書・洋書)も、前年度同様、或はより強化して継続する。 旅費については、前年度同様、国内外学会参加、見学移動旅費を計上する。学会参加のための経費(参加費)も同様である。 謝金は、教材開発のために、前年度お世話になった音楽療法の専門家(梅谷浩子講師)の指導・助言、さらには教材開発の具体的な制作支援を実施していただくために必要である。 教材開発の具体化のための諸経費(DVDや冊子等の製作費用、各種雑費、文具等)が、次年度あらたに計上される。これらについては、具体的に作業を進めて行く中で様々に必要経費が発生する可能性があり、臨機応変に、かつ適切に対応しなければならないと考えている。
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