研究課題/領域番号 |
23520462
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
有働 眞理子 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (40183751)
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研究分担者 |
高野 美由紀 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (70295666)
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キーワード | オノマトペ / 対話 / 知的障害児・者 / 音楽療法 |
研究概要 |
平成23年度は、知的障害児・者たちの対話能力育成支援の手がかりを求めて、発話の音楽性や身体動作との関連等を見るため、音楽療法の授業を観察した。平成24年度は、初年度に記録された授業記録・資料の談話分析を行いつつ、観察された研究成果を活用し、知的障害児・者の生活技術の向上をめざした訓練に役立つ映像教材の試作品を作成した。 作成の基本方針としては、題材として、知的障害児・者の生活技術の重要課題である歯磨きに絞った。特別支援学校においても、歯磨きの習慣化は、重要な指導課題として授業に数多く取り入れられている。我々はそこに注目し、音楽療法士梅谷浩子氏の作詞作曲した「はみがきソング」の歌詞を、韻律やリズム、音象徴的な言語音が組み込まれているオノマトペ表現を適切な箇所に組み込んで再編成した。さらにオノマトペ表現に同期する振り付けに、手話的な動きも取り入れて、身振り表現を盛り込み、代表者・分担者・協力者の3人による手作りオリジナル教材として作成した。 教材開発については、年度早期に取り組みを開始し、企画打ち合せ、検討課題調査、実演収録、編集、修正、加工、添付補助資料作成、6回を超える収録・検証・修正・打ち合せ等を経て、最終的に、150枚のDVD教材を完成させ、特別支援学校等40カ所以上に配布の上、実験的活用による、学術研究や教育支援のさらなる手がかりを得るための布石とした。また、分担者の英国視察により、ストーリーテリングの新しい教材(BagBook)の情報が入手された。 一方、音楽療法授業の談話分析研究については、平成25年3月の日本発達心理学会において授業観察についての成果発表を行った。また、平成25年8月に開催される国際知的障害学会大会において、音楽性の高い対話が知的障害児・者の生活向上にいかに重要であるかを議論するシンポジウム(国内外の4人の研究者で構成)の採択が決まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
音声発話の音楽性や身振り・ジェスチャーが対話促進に貢献する状況を、学校教育的文脈に位置づけられた談話事例を通して観察・分析し、その成果から得られた対話促進の手がかりを活用した教材開発につなげるという、本研究プロジェクトの当初の目標については、最終年度により洗練された教材として完成させるための準備として、オリジナルの初版DVD教材ディスクを作成できた。また、マルチモーダルな支援に映像教材を活用することの教育的効果についても観察出来るよう、近隣の知的障害児・者が通う教育機関に配布できたことで、次年度のさらなる談話分析のフィールドの布石を打つことができ、学術成果及び社会貢献の目的に向けて、当該年度の目標・成果を十分に達成できた。 音楽療法の授業の談話分析については、マルチモーダルな教師の働きかけが障害生徒の対話行動促進のきっかけとして機能している様子の事例を得ることができ、平成25年3月の成果発表において、インタラクションのプロセスを詳細に記述・分析し、談話分析上一定の成果を得た。ただし、平成24年9月に研修したELANによる、身振りと発話の相互作用の記述が完成度が低く、成果発表に十分に盛り込むことが出来なかったので、その点目標達成がやや不足したため、「おおむね順調」とした。 しかし、マルチモーダルな対話について、音楽を活用した教育的場面を、より広く様々な視点から観察していくために、次年度の国際知的障害学会研究大会のシンポジウムを企画し、関連領域の国内外の研究者で構成した企画が採択されたことは、次年度の研究推進のための大きな一歩となった。さらに、教材開発の新たな視座(英国で発展しているストーリーテリング教材)と支援方法についての情報が、分担者の英国視察を通して、具体的・詳細に得られたことも考え合わせると、成果還元の目的は、当初計画以上に進展したと言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
知的障害児の対話困難の解決や対話行動促進の要因や手がかりを求めて、音楽性の高い教育的対話場面の観察、特にオノマトペ表現の出現事例に関連させて談話分析を行うという基本方針を維持し、最終年度研究成果のまとめに向けて、平成24年度にやや不足したELAN等の既存分析ツールの援用を確実にする。また、音楽療法における対話の記述に最適な記述方法を開発するために、歌的な発話の諸相を記述出来るような、音符様の記述方式を創出して、よりきめ細かなプロソディや発話リズムの記述が可能になるよう、新しい記述手法の考案を試みる。 歯磨き指導DVD教材については、歌と演技の映像を追加し、オノマトペ表現を追加して洗練させる。さらに、歯科専門医の助言を得ながら、歯磨き動作指導をより具体的に教育的場面で実施していただけるように工夫し、印刷教材の補完もめざす。既に配布した教育機関のうち、授業に活用されたところで、活用の様子と教育的効果を観察する機会を得たい。その観察結果は、談話分析の対象とし、‘作って終わり’ではない、学術研究と教育支援のインタラクティブな進展をめざして、情報交換や交流を試みる。 研究成果発表の一つとして、平成24年度後半に申請し採択された国際知的障害学会(IASSID、平成25年8月開催予定、於早稲田大学)において、シンポジウム(題目:What helps the cognitively disabled to enjoy music activities: towards improved quality of life-long development)実施を成功させる。歯磨き指導の教育的対話場面の談話分析については、別途国内学会での成果発表をめざす。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品として、研究成果まとめ及び成果発表のため、収録した映像資料の記録や分析のための各種ソフトを購入することが必要である。研究動向調査のための文献購入(言語学、発達科学、教育学関連の和書・洋書)もこれまでと同様に必要に応じて継続する。 旅費については、前年度同様、国内外学会参加、見学移動旅費を計上する。学会参加のための経費(参加費)も同様である。特に、国際知的障害学会シンポジウム実施に伴う発表者への参加必要経費も計上する。 謝金は、教材開発のために、音楽療法士梅谷浩子氏の指導・助言、及び具体的な教材制作作業を実施・支援していただくために必要である。また、国際学会シンポジウム発表者として発表依頼する協力者への必要経費も適用検討している。 その他、DVD教材作成のための諸経費(DVDや冊子等の製作費用、各種雑費、文具等)、及び、最終年度の研究成果報告書冊子作成の費用も必須であり、計上予定である。
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