研究課題/領域番号 |
23520464
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
町田 章 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40435285)
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キーワード | 認知言語学 |
研究概要 |
本年度は,第13回日本認知言語学会において「身体経験に基づいた文法研究の可能性」というテーマのワークショップを企画し,研究発表(「身体的経験者と観察者-ステージモデルの限界-」)を行った。従来の言語学では,言語を分析する際に,言語表現それ自体の問題とそれを使用する言語主体の問題とを,便宜上,切り離して扱ってきた。しかしながら,認知主体のあり方が言語表現に与える影響の大きさを考慮すると,この両者を切り離すことは原理的に不可能であると考えられる。このような認識に立つLangackerの認知文法は,認知主体の認知能力に基盤を置いた理論構成物(theoretical constructs)を用いた言語現象の包括的な記述に務めてきた。しかしながら,認知文法の理論構成物の記述力の強さは,ともすれば,実証的な証拠や建設的な議論が伴われない抽象論に陥ってしまう危険性もはらんでいる。そして,最も問題なのは,このような記述力の強い理論に伴われるある種の“万能感”が,研究者が自らの仮説を実証しようとする態度,それ自体を削いでしまう傾向にあることである。以上のような問題意識に基づき,認知文法の仮説や理論構成物が本当に言語事実を有効に記述しているのかという問いを立て,身体経験という観点から,具体的な言語現象に即した実証的な研究を行った。特に,研究発表においては,従来から提案してきた「事態内視点」の図式を精緻化することによって,日本語の主体的移動やラレル形式の分析だけでなく,英語の中間構文の図式化を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,上述のワークショップにより,より多くの研究者と問題意識を共有することができた。また,内容的にも、Langackerの主体化に関する一連の研究を整理し,主観的状況(SS)の図式化をより精緻化することができた。特に,Subjectivityを「主体性」と「主観性」の訳し分けることで本研究の一連の提案を整理し,論文にまとめることができた(「傍観者と行為者-認知主体の二つのあり方-」刊行予定)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,事態把握の様式を「事態外視点」「事態内視点」というように「視点」の問題として議論すること自体に問題があることが明らかとなってきた。そのため,「視点」の問題だけではなく,認知主体と環境との「相互作用」の問題をどれくらい図式に取り込んでいけるかが課題として見えてきた。 今後は,Langackerが提案しているコントロールサイクル(control cycle)モデルを事態把握の様式を表すモデルに組み込む可能性を検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、都合がつかず,海外での研究発表ができなかったため,旅費で執行できない部分があった。次年度は、この分を調査研究のためにあてる予定である。
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