研究課題/領域番号 |
23520464
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
町田 章 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40435285)
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キーワード | 認知言語学 / 認知文法 / 受動文 |
研究概要 |
本年度は,前年度に引き続き事態内視点の図式化の研究を進めるとともに,特に,図式化の意義について考察した。具体的には,第14回日本認知言語学会において「認知文法における事態叙述の在り方―「事態」をどのように概念化するか―」というテーマのワークショップを企画し,研究発表(「英語属性叙述受動文の合成構造」)を行った。研究発表においては,英語受動形態素には,動詞と統合して主語構文に現れるもの(=V-PASS)と話題化構文と統合するもの(=TOPIC-PASS)が存在することを提案した。そして,これらはそれぞれ事象叙述受動文と属性叙述受動文に対応している。これにより,従来,他動性や行為連鎖の観点からは説明できなかった属性叙述受動文に対しても,認知文法の枠組みから説明することを可能にした。また,ここでの分析を通じて,図式の発見的意義と反発見的な側面に関しても議論した。図式が発見的意義を十分に発揮するには,記号的文法観に忠実に従いながら個々の事例に関して明示的に合成構造を検討する必要がある。そして,この作業が普段は見逃してしまう現象や合成上の歪みなどの発見を促すことになる。逆に,合成構造を無視して図式を使用すると,図式の明示性が失われ,概念構造の重要な側面を覆い隠してしまうことになりかねない。特に,合成構造を無視した図式は記述力が強く,反証不可能な説明を許容してしまうことになり,理論の発展の妨げになる可能性があることを指摘した。 また,事態の観察者として認知主体ではなく,事態に直接参与する行為者としての認知主体という観点から,コントロールサイクルに関する研究も行った。研究成果は「コントロールサイクルと被害性-被害受身の概念構造」として刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,上述のワークショップにより,より多くの研究者と問題意識を共有することができた。また,内容的にも、Langackerの図式の発見的意義を明らかにし,論文にまとめることができた。(「英語属性叙述受動文の合成構造」『日本認知言語学会論文集 第14巻』刊行予定) また,日本語被害受身文における被害性出現の問題を認知図式(コントロールサイクル)を用いて説明することができることを提案した。(「コントロールサイクルと被害性-被害受身の概念構造」刊行予定)
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,事態把握の様式を「事態外視点」「事態内視点」というように「視点」の問題として議論すること自体に問題があることが明らかとなってきた。そのため,「視点」の問題だけではなく,認知主体と環境との「相互作用」の問題をどれくらい図式に取り込んでいけるかが課題として見えてきた。これに加え,話し手・聞き手を一括して認知主体としてしまうことの問題点も明らかとなってきた。 今後は,Langackerが提案しているコントロールサイクル(control cycle)モデルを事態把握の様式を表すモデルに組み込む可能性とVerhagenの間主観性を認知文法の枠組みにどのように組み込んでいけるかを検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,私的な事由により海外での研究発表ができなかったため旅費の執行額が少なかった。 今年度は,資料の充実のために使用したい。
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