本年度は最終年度に当たるため,これまでの研究の総まとめとさらなる発展の可能性について研究を行った。これまでの研究では,人間の事態把握の様式は事態外視点と事態内視点に分類されることが提案され,そのような事態把握の様式の認知図式化が図られた。これにより,日本語の主観述語表現や「ラレル」形式,主観的移動表現や英語の中間構文,知覚構文の明示的な図式化が試みられてきた。 本年度はこれらの研究をさらに発展させた。具体的には,Subjectivityという英語を主観性と主体性に訳し分ける必要性を示し,Langackerの視点構図の不備を詳細に議論した論文「傍観者と参与者-認知主体の二つのあり方-」が刊行予定である。また,感情形容詞文の図式化を通して日本語認知文法の問題を扱った論文「認知図式と日本語文法-主観性・主体性の問題を通して-」も刊行予定である。また,関西言語学会において日本語の「ている」の多義性を認知図式の合成構造から検討する研究発表を行った。その際,「ている」に内在する事態外視点がいわゆる主観述語の人称制限を無効にし,自発の「られる」を受身用法に変更する認知的動機づけとなっていることを明らかにした。論文は,「事態把握の様式と日本語「ている」構文-認知文法からのアプローチ-」としてKLS36に掲載される予定である。
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