研究課題/領域番号 |
23520465
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
塚本 秀樹 愛媛大学, 法文学部, 教授 (60207347)
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研究分担者 |
堀江 薫 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (70181526)
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キーワード | 日本語 / 朝鮮語 / 文法化 / 対照言語学 / 複合格助詞 / 単一格助詞 / 連体形 / 受領動詞 |
研究概要 |
研究代表者の塚本は,特に日本語の複合格助詞「~にとって」とそれに対応する朝鮮語の表現に着目して考察し,文法体系における複合格助詞と単一格助詞の位置づけについて次のことを明らかにした。 (1)朝鮮語では,日本語の単一格助詞「に」に対応する単一格助詞ey; eykeyあるいは単一格助詞hantheyを用いて表現できるところを,日本語では単一格助詞「に」のみでは表現しきれない。(2)日本語の複合格助詞「~にとって」は,それに含まれている「とる(取る)」という動詞が元々有する〈奪取〉という実質的な意味が失われ,〈関係〉という意味に転じてはいるものの,その動詞が有する意味により,単一格助詞「に」のみでは表現しきれないところをカバーしている。(3)朝鮮語の単一格助詞ey; eykeyは,文法体系の中心を占め,安定した様態となっているのに対して,日本語の単一格助詞「に」は,文法体系の中心からやや外れ,不安定な様態となっている。(4)上記(3)における両言語間の相違は,上記(1)(2)で指摘した両言語間の文法化の相違が大いにかかわっている。 研究分担者の堀江は,次のことを明らかにした。 第一に,日本語と朝鮮語の文法化のプロセスのどこまでが平行しており,どのような相違点があるかを明らかにすべく,両言語の文末名詞化構文(例:「のだ」)の機能拡張を言語類型論及び対照言語学の観点から分析した。第二に,両言語の連体形(例:「みたいな」)が定着して文法化するプロセスに着目し,連体形が終止形化することでどのような語用論的機能を獲得するに至っているかを歴史語用論の観点から分析した。第三に,両言語の受領動詞(「もらう/patta」)の補助動詞化の過程について機能類型論の観点から分析を行った。第四に,「見る」という動詞が抽象的な事態の発生を表す構文を構成している現象(例:「実現を見る」)に着目し,考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
入手した言語学関係の図書・論文によって,これまでに行われてきた理論的なアプローチからの考察を検討し,入手した日本語と朝鮮語に関する参考書によって,まずは記述されている範囲内でそれぞれの言語の事実を確認した。 研究代表者及び研究分担者の直感が効かない朝鮮語に関しては,それぞれの所属研究機関で母語話者に対して入念なインフォーマント調査を行い,従来の参考書には記述されていなかったり記述が詳しくなかったりする言語事実を明らかにした。 それによって得られたデータと情報については,研究代表者と研究分担者の間でその都度,連絡をとって提供し合い,検討するとともに,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて意見交換を行った。 国内及び海外での学会に出席した際,またアメリカ合衆国の研究者のところ(ハーバード大学)に直接,出向くことによって,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて研究者と議論し,また助言を仰いだ。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度と平成24年度に行った,基礎となるものを作り上げる作業((1)先行研究の検討,及び参考書に記述された言語事実の確認,(2)朝鮮語のインフォーマント調査による言語事実の解明)を継続して行う。 そういったことにより,次のことを行う。日本語と朝鮮語における文法化現象に関する両言語間の類似点と相違点を明らかにした上で,その両言語間の相違は,何を意味し,何が要因となって生じているのか,ということについて対照言語学からのアプローチで探究する。 その探究の際には,特に,形態・統語的仕組みに関する両言語間の相違が文法化に関する両言語間の相違にいかに影響を及ぼしており,また影響を及ぼしていないか,といった二者の相互関係に着目し,その実態を明らかにする。 研究代表者が研究分担者のところに直接,出向くか,あるいは逆に,研究分担者が研究代表者のところに直接,出向くことによって,得られたデータと情報について検討するとともに,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて意見交換を行う。 国内及び海外での学会に出席した際,あるいは国内及び海外の研究者のところに直接,出向くことによって,思索中の研究代表者及び研究分担者自身の考えについて研究者と議論し,また助言を仰ぐ。 本研究の総まとめとして研究成果についての口頭発表の準備や論文化を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
第一に,新たに出版された言語学関係図書と言語に関する参考書を購入し,充実させるのに,設備備品費が必要である。 第二に,基礎データとなる,補充すべき日本語と朝鮮語の実例を収集し,それを整理することを有能な研究補助者に依頼するのに,謝金が必要である。 第三に,研究代表者及び研究分担者の直感が効かない朝鮮語については,母語話者に対して入念なインフォーマント調査を行うのに,謝金が必要である。 第四に,研究代表者と研究分担者は,常に密接な連携をとって本研究を進めることになり,時としては直接会って意見交換・議論を行わなければならず,これには旅費が必要である。 第五に,研究代表者と研究分担者はともに,国内外の他の研究者を訪ね,意見交換・議論を行うことがあり,国内外の学会に出席して研究成果を発表することも予定している。こういったことにも十分な旅費が必要となる。
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