研究課題/領域番号 |
23520466
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
宮平 勝行 琉球大学, 法文学部, 教授 (10264467)
|
キーワード | 国際情報交換 / ニュージーランド / 米国 |
研究概要 |
平成24年度の成果の一部は,石井敏・久米昭元(編)の『異文化コミュニケーション事典』に4項目(琉球・沖縄,共通語と方言,コミュニケーションの民族誌,母語と公用語)の解説として掲載されている。本研究を通して得られた琉球諸語に関する歴史学および社会言語学的な知見が盛り込まれている。 また,平成25年10月に開催される第4回国際多文化ディスコース学会に向けて口頭論文発表を申請し,このほど受理された。発表論文の題目は“Framing and reframing pirin paran katayabira online: The construction of Okinawan and Japanese language ideologies on the participatory web”である。参加型のソーシャルメディアを用いた沖縄語普及活動に散見される言語イデオロギーについて論じた論文である。 近年中にCambridge Scholars社から出版を予定している琉球諸語の社会言語学の研究書に一章を寄稿するために論文概要を提出した。論文題名はRyukyuan discourse: Sequential organizations and interactional resources of a modern Ryukyuan contact languageとなっており,本研究で注目している継承沖縄語と大和沖縄語の談話レベルでの構造について論じた内容となっている。 その他,平成24年度は,琉球大学の学生と米国ロサンゼルス在住の沖縄県民移民子弟を対象に会話データの収集と整理を行った。一定の課題についてグループで解決策を協議の上で決めてもらい,その間の会話の音声と映像を記録した。その後,収集した音声データのトランスクリプトの作成に取り組んできた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目となる平成24年度は自然に生起する継承沖縄語と大和沖縄語の会話データを収集することが大きな目標であり,先般の沖縄県内および米国ロサンゼルスにおける調査でその目標は一部達成された。しかしながら,会話データの収集よりもその文字起こし(トランスクリプト作成)がはるかに時間を要することを考えると現在進行中のこの作業を更に加速させる必要がある。また,海外のデータとして沖縄県人移民子弟が多いハワイや南米でのデータ収集が今後の課題である。さらに,若年層の会話データだけでなく,沖縄語を話す60~70代の沖縄語話者の会話データも比較のため収集する必要がある。 データ収集と併せて取り組んだのが文献の収集と通読である。談話構造の分析に必要なエスノメソドロジーや会話分析,談話分析,コミュニケーションの民族誌などの研究手法を取り入れた事例研究を読むことによって,継承沖縄語と大和沖縄語の談話の分析にこれらの手法をいかに取り込むか,一定の展望が開けてきたことをひとつの成果として挙げたい。加えて沖縄語から標準語への言語シフトに起因する言語変化について,ハワイやシンガポールといった諸外国での事例と比較して検証できたことも本年度のひとつの成果である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,これまでに収集した会話データに基づいたトランスクリプトの作成を鋭意進め,先述のハワイや南米における会話データの収集,および沖縄県内在住の高齢層の人々が話す沖縄大和語(ウチナーヤマトゥグチ)の会話データの収集に取り組む。その上で,沖縄大和語との比較分析のために奄美諸島で観察される「トン普通語」と呼ばれる接触言語の会話データの収集にも取り組みたいと考えている。会話データの収集にあたってはポッドキャストやインターネット・ラジオ,YouTubeなどのソーシャルメディアも活用する予定である。 このよう会話データをもとに,沖縄大和語や大和沖縄語においてアスペクトやモダリティ(高江洲, 2004)といった文法要素がどのように構成されているのかを考察する。さらに,こうした接触言語による会話において,会話連鎖の仕組み(Schegloff, 2007)と参加の組織化(串田,2006)が具体的にどのように実践されるのかを明らかにしたいと考えている。このような分析を重ねることで沖縄大和語や大和沖縄語に固有な談話の構造とその社会文化的な意味を発見できるであろう。 上記の分析成果をまとめ,沖縄大和語使用の背後に存する言語イデオロギーについては,先述の国際多文化ディスコース学会において口頭発表し,その結果を踏まえて論文にまとめて発表する予定である。加えて沖縄大和語や大和沖縄語の会話連鎖の仕組みや参加の組織化の一端を紹介した論文を先述の『琉球諸語の社会言語学』に寄稿するのが本年度の具体的な目標である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は中国・杭州で開催予定の国際多文化ディスコース学会において口頭発表を行う予定であるため,その旅費が必要となる。この学会には研究協力者のDr. Peter Petrucciと事前に琉球大学に於いて研究の打ち合わせをし論文を執筆する予定であるため,沖縄滞在中の宿泊費の一部を本研究費から拠出する予定である。同国際学会以外にも積極的に国内外の学会やシンポジウムなどに出席し,琉球諸語の研究者と研究協力及び交流を深めたいと考えている。 夏にはハワイもしくは南米の沖縄県人会コミュニティにおけるデータ収集とフィールドワークを実施する計画でいるため,そのための旅費を確保したいと考えている。加えて,先述のように60~70代の沖縄語話者の会話データを収集する必要があり,調査に協力してくれる方々に対して謝金をお支払いすることもありうる。また,会話データのトランスクリプトの作成を継続するため,ソフトウエアや機器,消耗品などが必要となる。トランスクリプトの作成には研究代表者のもとで訓練を受けた大学院生に参加してもらう予定であるため,その雇い上げ費用を確保する必要がある。 これまで同様に日本語と外国語で書かれた文献が必要である。紙媒体の文献だけでなく,近年著しく普及してきた電子書籍も活用する予定である。図書館相互貸出システムで学内にない図書を入手したり,研究論文の複写サービスを利用するために本予算を用いる予定である。
|