研究課題/領域番号 |
23520468
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
垣田 邦子 富山県立大学, 工学部, 教授 (10148827)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ポーズ / 自発発話 / 読み上げ発話 |
研究概要 |
本研究の目的は、自発発話におけるポーズ挿入とそれに伴う発話の調節の実態を解明し、その背後にある規則を明らかにすることである。具体的には、日本語話者による自発発話を音響分析し、読み上げ発話と対比させながら、ポーズ挿入に伴うセグメント長の変化やピッチ変化などの発話調節の実態を明らかにし、その上で、現存の音声生成理論に照らしてポーズ産生規則を解明することを目標とする。 初年度にあたる本年度は、音声収録および一部音響パラメータの計測・分析を行う予定であったが、実際には行程を一つ追加し、より効果的な自発発話状況の設定および読み上げ発話テキストの準備に資するため、連続発話の読み上げにおけるポーズに関する詳細な分析をまず行った。その結果、既存の知見に加えて、個人差について有益な知見を得ることができた。 具体的には、文中ポーズの挿入は文末ポーズの長さに影響を及ぼすが、その影響には個人差があり、文中ポーズ挿入によって文末ポーズが長くなる話者と短くなる話者とがいることが明らかにされた。前者は、文中ポーズ挿入に伴って文末ポーズも長くするという「補強」策をとり、結果的にパラグラフ全体に時間をかける読み上げ方法をとるのに対して、後者は、文中ポーズに時間を要した分、文末ポーズを短縮するという「調整」策をとり、パラグラフ全体にかける時間はむしろ短縮の方向で読み上げを行う、という結果が得られた。このように、パラグラフの読み上げにおけるポーズの扱いについては個人差があることが分かったが、同一話者内では、その扱いはパラグラフの種類によらず一貫しているという点も明らかになった。 今年度の実績としては、計画に行程を一つ加える形となったが、自発発話の収録に進む前に、効果的な発話状況の設定および読み上げ発話テキストを準備する際に考慮すべき点が明らかになったという意味で有意義であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究期間は3年間で、初年度および次年度には音声収録ならびに各種音響パラメータの計測・解析とその結果に関する検討を、そして最終年度には、音声生成理論と関連づけた統括的な考察を行う計画である。 初年度にあたる本年度は、前半で音声収録を、そして後半で音響パラメータの計測・分析を行う計画であったが、行程を一つ加え、より効果的な自発発話状況の設定および読み上げ発話テキストの準備の検討材料を得るために、連続発話の読み上げにおけるポーズの詳細に関する分析を実施した。結果として、既存の知見に加えて、新たに個人差に関する有益な分析データを得ることができた。初年度の計画の遂行という観点からはやや遅れ気味になっていると言えるが、本研究の最終成果を左右すると言って過言ではない発話状況の設定やテキスト文に関して有益な情報が得られたという点で、また、今回明らかにされた結果は今後実施する自発発話との比較の際にそのまま活用できるという点で、むしろ有益であったと考える。 3年間の計画としてみると、発話データの計測・解析に初年度と次年度の2年間をあてているので、今回の遅れは次年度に取り戻すことが可能であり、研究全体に支障をもたらすものではない。 なお、計画の一部にあげている研究成果の発表については、2012年2月29日~3月2日にブラジルのベロオリゾンテ市、ミナスジェライス州連邦大学で開催された、第4回音声コミュニケーション国際会議(GSCP 2012; International Conference on Spoken Communication)において、研究報告を行った(K. Kakita, "The effect of pause insertion on the temporal organization of connected utterances")。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(初年度)は、研究計画に一部行程を追加したため、計画遂行という観点からはやや遅れ気味になっているとも言えるが、追加の行程で得られた結果は、次年度に実施する分析・考察にそのまま活用できるため、遅れは次年度中に取り戻すことが十分可能である。 次年度は、発話収録から始めて、各種音響パラメータの計測・分析を行う予定である。自発発話と読み上げ発話におけるポーズ挿入とそれに伴う発声・調音の調節の特徴を比較し、それらの共通点および相違点について、定量的に明らかにしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費(「当該年度の所要額」)は、計1,600,000円で、このうち「次年度使用額」が、644,237円生じた。これは、消耗品(ソフトウエア等)については、大学の競争的研究費でまかなえたため、また、国内旅費(早稲田大学研究打ち合わせ等)については、東北地方太平洋沖地震の影響により出張をひかえ、研究に関する議論をメールで行うようにした結果である。 なお、備品としてのパーソナルコンピューターや、消耗品としての周辺機器(プリンター等)の購入、そして国外旅費(国際会議発表)については、研究計画に従って執行した。 平成24年度の研究費の使用については、(1)当初の計画についてはそれに沿って、また、(2)次年度使用額については、研究打ち合わせや国際会議での発表のために積極的に使用したいと考えている。
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