研究課題/領域番号 |
23520469
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
那須 紀夫 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00347519)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 言語学 / 統語論 / 文頭 / カートグラフィー |
研究概要 |
平成23年度は言語事実の把握、とりわけ文頭と文末の形式の対応関係を整理することを目標として研究を行った。年度前半は文頭と文末の形式を収録した語彙リストを作成した。これをもとに年度後半には文頭に助詞が独立して生起する「助詞残留現象」を重点的に分析し、以下の成果を得るに至った。 まず、提題助詞「は」が残留する現象に着目し、副詞節、引用節、ならびに名詞修飾節における当該現象の現れ方を吟味することによって、それが主節現象であることを確認した。さらに、提題タイプの助詞残留と発話伝達を表す文末形式(終助詞など)が同じ環境に現れることが確認され、両者の呼応関係が明らかになった。 次に考察の対象を焦点タイプの助詞残留へと拡大し、当該現象が起こる文内の階層の特定および対応する文末形式の特定を試みた。その結果、焦点タイプの助詞は提題タイプの助詞が生起する階層よりも下の階層(具体的には焦点階層)の左端部に生起すること、そして焦点階層に生起する文末表現である「(の)だ」と共起せねばならないことが分った。加えて従属節に生起する可能性を調査したところ、提題タイプと同様、焦点タイプの助詞残留現象も主節現象であり、発話伝達の文末形式と高い親和性を示すとの結果が得られた。 句構造上の異なる階層に属しているにも関わらず、提題タイプの助詞残留と焦点タイプの助詞残留が発話伝達の文末形式と密接な関係を持っていることは、発話伝達という談話機能が統語現象である呼応に関与する可能性を示唆している。これは平成24年度の研究課題、すなわち「文頭と文末の呼応関係を仲介する素性の性質の解明」に向けて、萌芽的な着想をもたらすものであり、平成23年度の研究の最大の成果であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、言語事実の整理、とりわけ文頭形式と文末形式の呼応関係を特定することを主たる目的として研究を進めた。年度前半には、研究対象とする形式を収録した語彙リストの作成を行い、予定通り完成させることができた。また「研究実績の概要」欄に記したように、年度後半に行った助詞残留現象の分析では、提題タイプと焦点タイプの助詞残留現象それぞれについて、文末形式との対応関係が明らかになった。その結果、平成24年度の研究課題につながる着想を得るに至った。以上の成果を考慮すると、当初の目標は概ね達成されたと考えてよい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究目標は、文頭と文末の呼応関係を仲介する素性の性質を解明することである。前年度の研究結果を基に、「文頭の自立語化要素は終助詞が持つ発話の対人伝達機能と類似した談話上の特徴を有しており、この特徴を反映する素性が文頭と文末の呼応関係を仲介する」という仮説を立て、その妥当性を検証する。 年度の前半には、文頭形式と文末形式の対応パターンについて、より詳細な検討を加える。具体的な作業としては、前年度作成したリストを基に、個々の形式の共起関係および生起環境を特定し、呼応関係を成立させる談話・発話伝達上の特性を抽出してゆく。とりわけ、助詞以外の文頭自立要素について、助詞残留現象で用いたのと同様のテストを用いて分布パターンの解明を行い、助詞の場合と同様の傾向が見られるか否かを検証する。その際、データ収集の一環として、母語話者に対して文法性判断テストを行う。年度後半には引き続き上記の作業を行う一方で、それまでに得られた成果を学会等で発表し、各方面からのコメントを基に理論の修正を行った上で論文としてまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度には当初予定していた研究費を概ね消化した。残額は25,678円である。平成24年度には、理論言語学関連の学会(GLOW in Asia IX など)に出席して、最新の統語理論に関する情報収集を行う。これに加えて、これまでの研究成果をまとめて中間報告を行うことを予定している。そのため、発表用資料の作成および学会出張に充てる支出が見込まれる。また、データ収集を目的として、母語話者への文法性判断テストを行うことを計画しており、これに伴う謝金の支払いが生ずる可能性がある。さらに、平成23年度と同様、必要に応じて理論言語学(統語論・語用論関係)および日本語文法に関する図書の購入も予定している。
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