研究課題/領域番号 |
23520469
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
那須 紀夫 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (00347519)
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キーワード | 言語学 / 統語論 / 文頭 / カートグラフィー |
研究概要 |
平成24年度は文頭と文末の対応関係を仲介する文法素性の性質を解明することを目標として研究を行った。具体的には、「文頭の自立語化形式は終助詞が持つ発話伝達の対人的機能と類似した談話上の特徴を有している」という仮説を立て、その妥当性を検証することを目指した。 上記の方針に従って文頭形式と文末形式の対応関係をより詳細に検討する作業を行った結果、以下のことが確認された。(1)文頭に残留する提題助詞「は」は終助詞や呼格要素と同じ階層に属しており、いずれも話し手による聞き手への働きかけを具現化した形式である。(2)当該階層は主節のみに出現し、従属節には現れない。 本年度はさらに焦点タイプの助詞残留の分布についても検討した。前年度の研究の結果、このタイプの助詞残留が焦点階層に属する現象であり、かつ提題タイプと同様、主節特有の現象であることが確認されていた。しかしながら、焦点階層は主節のみならず従属節にも存在することが知られており、なぜ従属節の焦点階層が助詞残留に利用できないのかが、未解明の問題として残されていた。本年度はこの問題に取り組み、焦点タイプの助詞残留が示す主節指向性を極小主義理論の multiple spell-out の仕組みに還元して説明することを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究活動は前年度の研究で明らかになった言語事実に対して理論的な説明を与えることを主たる目標としていた。とりわけ文頭と文末の形式間に成立する呼応関係を仲介する文法素性を特定することが中心課題であったが、これについては、発話伝達の対人的機能を具現化する素性がそれに該当するとの結論が得られた。さらに、助詞残留と終助詞以外にも、呼格要素や間投詞などのような要素もこうした特徴を共有することが判明し、これら一群の形式が文内の同一階層に生起することから、上述の素性を措定することの妥当性が確認された。このような成果に加えて、「研究実績の概要」欄にも記したように、本年度は前年度には未解決のまま残っていた問題に対しても、一定の解決案を示すことができた。特に、提題タイプの助詞残留が示す主節指向性と焦点タイプの助詞残留が示す主節指向性が異なる性質を持つことが明らかになったことは、本年度の研究の大きな成果であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、必要に応じて資料の再検討および理論の修正を行いながら、文構造の他の領域では不可能な自立語化がなぜ文頭では可能になるのかという問題を解決することを目指す。文頭での自立語化は発話伝達の対人機能を担う素性を可視化(音声化)するために起こる現象であるとの仮説を立て、その妥当性を検証することが主たる作業である。 この作業を行うに当たっては、統語と音韻の対応関係について整理し、文頭における自立語化が音韻現象とどのような関わりを持つのかを考察することが必要になると予想される。したがって、年度の前半には統語構造から音韻構造への写像プロセスに関する文献調査を主に行う予定である。 年度の後半は上述の仮説の検証を行い、必要に応じて修正を加えながら助詞残留と音韻現象との関連性を探求していく。これと並行して、これまでに得られた結論をさらに洗練させ、文の語用論的機能を反映する外縁領域の句構造のあるべき姿を明らかにするためのモデル構築を行う。前年度同様、成果を学会等で発表し、各方面からのコメントを基に理論の修正等を行った上で論文としてまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には当初予定していた研究費を概ね消化した。平成25年度には前年度と同様、理論言語学関連の学会や研究会に出席して、最新の統語理論に関する情報収集を行う。また、これまでの研究成果をまとめて学会等で発表することを予定している。そのため、発表用資料の作成および学会出張に充てる支出が見込まれる。また、統語と音韻のインターフェイスに関する文献調査のために、関連する図書の購入も予定している。
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