研究課題/領域番号 |
23520478
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
崎田 智子 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10329956)
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キーワード | 認知言語学 / 対話統語論 / 認知語用論 / 伝達 / 対話 / 発話構築 / 談話 / 語用論 |
研究概要 |
本研究は、談話と認知を統合して言語運用を研究する認知語用論のアプローチにより、伝達言語の発話構築メカニズムと認知的背景を解明するものである。 本年度は、カテゴリー化の能力に基づく拡張、意味の連鎖による拡張、前景化・背景化等の主体の認知能力を基盤にして、対話の参与者の間主観性に基づき発話間の相互作用の中で特に響鳴を通して発話が動的に拡張されながら対話が進行していくメカニズムを探求した。この中で発話の産出に関わる特徴を自然な対話の中で分析した。まず、先行する複数の発話に複合的に響鳴し、その響鳴の連鎖の中で次々に発話が構築され対話が進行する様子を検証した。響鳴は、意図、状況、スタンスの差等を反映して実現され、心的表象としてのシンタグマティックな構造とパラディグマティックな記号同士の相互関係とが基盤となっており、ネットワークに基づき主体の基本的認知能力であるカテゴリー化や拡張等が重要な役割を果たしていることが明らかになった。次に、響鳴は再文脈化のプロセスであり、脱文脈化、再配置、再焦点化を通して元の意味や目的に何らかの変化を生み出しながら再文脈化が行われるメカニズムを検証した。また、響鳴は発話間の意味の関係性に関わらず生じ、話者間の相互作用的提携を保持・強化することが明らかになった。さらに、発話は先行する発話への応答であると同時に相手の反応を予測しそれに回答する形で発せられるものであり、対話における発話構築のプロセスは常に対話性を基盤にし、話者間の間主観性を反映していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、談話と認知を統合して言語運用を研究する新しい認知語用論のアプローチにより、伝達言語の発話構築メカニズムと認知的背景を解明するものである。相互行為を含む進行中の談話プロセスの中で言語構造や規則性を説明する対話統語論に、カテゴリー化、スキーマ化、拡張等の話者の認知能力の側面を統合し、日常言語における伝達に関わる言語事象が対話の中で創発、構築されるプロセスとそれを可能にする認知的背景とを、響鳴のメカニズム、コミュニケーション上の要因、対話に与える効果等を含めて明らかにするという目的にそって研究を進めた。 今年度は、自然言語データに基づいて、発話間の相互作用の中で発話が動的に拡張されながら対話が進行していくメカニズムを綿密に検証し、その基盤となる主体の基本的認知能力の側面をあわせて分析した。また、談話理論、スタンス、伝達、言語習得に関する資料収集を進め、フィールドワークにより様々な文脈での発話を考慮しながら研究を進めることができた。さらに、国内外の研究者との協力を通じて、データ分析結果に対するフィードバックを得ながら研究を進展させてきた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では今後、引き続き認知語用論のアプローチにより伝達言語の発話構築メカニズムとその認知的背景を探究するという目的にそって、自然な日常言語データの収集・分析を基盤にして研究を推進していく。 まず、過年度に引き続き、フィールドワークを含むデータ収集及び分析・検証を進めて行く予定である。ダイアグラフを用いた談話分析を進め、さらにその裏付けとなる定量分析を導入する。伝達発話全般に焦点を当て、響鳴による被伝達内容の変化、連鎖反応による被伝達内容の推移等を観察する。また、談話標識の対人関係調整に焦点をあてて対話の流れや発話構築のメカニズムを明らかにするが、特に様々な談話文脈によるゆれの可能性を考慮し、ナラティブ、伝達、言い直し他、異なる文脈における生起例を分析する。対話統語論、スタンス理論、認知言語学、談話情報理論、言語発達・習得理論、の多角的視点から統合的に発話構築のメカニズムを検証して行く。 以上に関して、今後も引き続き、国内外の研究協力者からの協力や分析結果に対するフィードバックを得ながら研究を推し進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、研究協力者からの好意により、協力を得る上で謝金を必要としなかったケースがあった。また、物品購入の次年度への繰り延べが生じた。次年度以降に、研究打ち合わせや研究協力を含めながら、必要な機器の購入を合わせて研究を進めて行く予定である。
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