本研究は認知語用論の枠組み内に対話統語論と認知言語学を統合した対話への新しいアプローチを提起し、これを用いて対話における発話構築メカニズムを探究するものである。 本年度は、自然言語データの談話分析及び定量分析を通して、対話の展開及び発話の創発には参与者間の共有認知が深く関与しており、その上でスキーマ化や拡張等の認知能力に支えられたマッピングが重要な機能を果たすことが浮かび上がってきた。特に、響鳴とスタンスとの関係を明確にし、様々な文脈における発話展開をダイアグラフ表記する方法、それぞれのダイアグラフに応じたスタンストライアングル分析による表示法、自然言語データにおけるスタンスのタグ付け方法、等を詳細に検証した。また、研究協力者からフィードバックを得てデータ分析の評価者間信頼性を確認しながら研究を進めた。そして、スタンスの微妙な差異または推移が、多様な響鳴の枠組みの中に、語順、主語、態、トピック化、反復、語彙連結、代入、談話標識等を通して組み込まれ表現される様子を実証的に示した。 一方で、対話の相互作用と響鳴のマッピングを、認知言語学における現行談話スペース(CDS)モデルによって示唆される焦点移動の連鎖や拡張として位置づけることで談話の一貫性や認知背景を説明するため、スキーマ化と拡張による発話の連鎖を図式化した。また、対象データを広げ、従来対話とは別形態とされてきた独話や語りにおける発話産出に関しても、言語と思考の対話性を基盤にして発話プランニングと間主観性の概念を取り入れることで響鳴とスタンスが重要な役割を担うことを示した。 さらに、新たなアプローチの問題点と課題を見出し、後続研究へ発展させることとした。
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