大規模コーパスを用いた計量的調査により従来知られていなかった多くの知見を得た。 程度的な名詞の、形容詞別共起傾向の推移の分析から次のことが分かった。(1)「高い」「大きい」「強い」のいずれかとの共起率が上昇している名詞が多い。各形容詞にとの共起率の上昇した名詞を眺めると、意味的な共通点が認められる。大局的には、主に単一の形容詞と共起する方向にまとめられていく変化とみなしうる。(2) 多くの名詞に対して共起率が顕著に減少した形容詞は「多い」であり、一種の意味変化と考えうる。(3) (1)(2) ともに、対応する小値語での変化は、より遅いか、不明瞭である。 量的形容詞の反義関係に着目した分析から、次の知見を得た。(1)「濃い-薄い」を除く多くの語では、名詞との共起は、大値語に偏っている。「強い-弱い」などで特に偏りが大きい。(2)名詞と各形容詞対との関係を見ると、「大きい-小さい」では特異的に大値語との共起の多い名詞が多いこと、「多い-少ない」「濃い-薄い」ではその反対の傾向の名詞が多いことが分かった。 有無の述語における名詞別用例頻度の分析の結果からは、「長い-短い」などの形容詞対に比較的近い分布を示すことが分かった。 最終年度は、量的な増減を表すことのある述語32種について、主語名詞との共起傾向を調査した。特に「高まる、強まる」「薄まる、薄れる、薄らぐ」「増す」の3群の述語について、各群内の各語が高い共通性を示すこと、3群相互の間にもある程度の共通性があることが分かった。また、増減動詞と形容詞を対応付け、それぞれの名詞との共起傾向を比較した。「強まる:強い」では共起傾向の相関が高いが、「高まる:高い」ではやや弱い。さらに、「増す:多い」の比較では「可能性」「危険性」「甘み」などは「増す」とはよく共起するが「多い」とはそれほど共起しない。この事実は「多い」の用法縮小と関連する可能性がある。
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