研究課題/領域番号 |
23520483
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
前川 喜久雄 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語資源研究系, 教授 (20173693)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 自発音声 / 韻律構造 / 非流暢性 / コーパス / CSJ |
研究概要 |
『日本語話し言葉コーパス』のコア部分(CSJ-Core)に付与された韻律ラベルを関係データベース(RDB)用に再構築して必要な情報が抽出できるようにするための作業をすすめ、あわせてエラーの修正を施した。また、このRDBを利用して『日本語話し言葉コーパス』に含まれるすべてのフィラー(言いよどみ)約36000個を抽出した。このフィラーデータに、前後の音韻環境および形態論情報、持続時間、ピッチ、話者情報などを付与したフィラー研究用データベースをRDB上に構築した。 上記RDBを利用して、従来から分析を進めてきた final loweringおよびPNLPと呼ばれるイントネーション現象を再分析し、従来と同様の結論が得られることを確認した。これによってRDBデータの信頼性を確認した。PNLPの分析結果を記載した論文が学会誌に査読論文として掲載された。 フィラーデータベースを利用して、フィラーのピッチがどのように決まるかという問題を分析した。この問題については従来ほとんど検討が加えられていないが、理論上、A)フィラーの高さも通常の音韻情報と同様、言語学的な指定を受けているとする立場と、B)フィラーの高さは指定されておらず、フィラーの置かれた音声環境によって自動的に決まるとする立場とがありうる。現在までの分析結果は、大部分のフィラーについては、B)が該当することを示しているが、一部のフィラー(「え」「えー」「ん」等)については、話者が積極的にフィラーを低いピッチで発声していると思われるケースがあり、この部分に関しては上記A)の解釈が成立する余地が残されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非流暢性要素のひとつであるフィラーの高さ(ピッチ)の決定メカニズムは従来全く不明であったが、今年度の分析によって、その基本的な姿がかなりの程度まで明らかになった。基本的なモデルは非常に単純であり、フィラー直前の発話末のトーンのピッチとフィラー直後の発話冒頭のトーンのピッチをむすぶ仮想的な直線を考えると、その直線状でフィラーの始端が占める位置に対応するピッチがフィラーのピッチを与えるといううものである。そしてフィラーは、そのテキスト的特徴(「で」「ま」「え」等)によって、この直線上の分布が異なっているので、直線の始端近くに位置することの多いフィラー(「あのー」等)は低く発音され、反対に直線の終端近くに位置することの多いフィラー(「で」等)は高く発音されることになる。このような単純なモデルで平均誤差12Hz程度の予測精度を達成できるのは一種の驚きであった。また隣接する発話間においてフィラーが占める位置がフィラーのテキスト的特徴と相関していることも新発見であった。従来、フィラーの語用論的意味については、あ」が言語表現の検索、「え」が表現内容の検討をあらわすという説が行われてきている。しかし「あ」と「え」が上記の直線上で占める位置は比較的に接近していることが今回明らかになった。この新事実は、フィラーは上記ふたつの意味以外にさらに多様な語用論的意味を伝達している可能性を示唆するものであり、フィラーの語用論に新たな展開をもたらす可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
年度の前半には、フィラーの分析を継続して、昨年度の成果であるフィラーの高さ決定モデルを精緻化する。またあわせてフィラーの語用論的意味の分類についての理論的な考察を試みる。 年度の後半には、発話境界の統語的特徴がイントネーション境界におよぼす影響についての検討を開始する。ここでもやはりCSJ-Coreのデータを利用するが、分析を容易化するためにデータの再加工を必要とするので、その作業を実施する。現象としてはfinal loweringとdeclinationの現象をとりあげる。 研究成果を専門学会で発表し、できれば論文執筆にまで進む。学会としては日本音声学会、日本音響学会などを想定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際学会での成果発表に海外旅費を支出する予定がある。データの再加工に役務費を支出する予定がある。データ処理用にノートブックPCを購入する予定がある。
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