非流暢性要素に関しては、前後を通常のアクセント句に挟まれた環境に生起するfilled pauseの高さは、先行句末のtoneと後続句頭のtoneを線型補間することで、平均20Hz前後の誤差で予測可能であることを明らかにした。これはfilled pauseの高さに関する限り、日本語の韻律構造中に言語学的な指定は必要ないことを示唆する結果である。この成果は、非流暢性現象に関する国際会議であるDiSS(Disfluency in Spontaneous Speech)に応募して採択され、口頭発表した。 自然下降については、発話末での局所的なピッチ下降現象であるfinal lowering現象をとりあげ、その生起領域の広さを、『日本語話し言葉コーパス』コアのデータを用いて検討した。分析結果は、自発音声にもfinal loweringが生じており、その生起領域は発話の最終アクセント句であることを明瞭に示していた。またfinal loweringが生じるのは、絶対的な文末だけに限られず、統語的にみてより弱い節境界にも生じていることが確認できた。さらに、生起領域の広さと統語境界の深さの間には交互作用があり、統語的に最も深い境界である絶対文末では、最終アクセント句だけでなく次末(penultimate)アクセント句にも若干の下降が生じていることが統計的に確認できた。この成果については、日本音声学会とAcoustical Society of Americaの大会で口頭発表した。現在は上記の成果を盛り込んだベイズ統計モデルを作成中である。
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