研究課題/領域番号 |
23520486
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千種 眞一 東北大学, 文学研究科, 教授 (30125611)
|
キーワード | 古典アルメニア語 / 新約聖書 / 談話 / 書簡 |
研究概要 |
古典アルメニア語新約聖書の談話構造を分析するための第一級の資料とされる「書簡」というテキスト・ジャンルに焦点を絞り、談話構造を構成する主要な三つのカテゴリー、すなわち①談話境界[談話の一単位が終わり新たな一単位が始まるところ]、②卓立[談話の山場]、③結束性[談話をひとまとまりとして結束させる諸要素の総体]のそれぞれに関して、新約聖書ギリシア語本文と古典アルメニア語聖書のうち「パウロの名による書簡」(「コロサイ人への手紙」「エフェソ人への手紙」「テサロニケ人への第二の手紙」「テモテへの第一・第二の手紙」「テトスへの手紙」)をテキスト対照し、談話的レベルでの対応関係を同定した。とくに、アルメニア語翻訳に見られる独特の異訳や、付加・省略・不訳などギリシア語原文からの逸脱に注目し、これらの現象がアルメニア語に固有の談話戦略を反映した意図的な翻訳行動によるものであったことを明らかにした。また、アルメニア語本文で isk, aysowhetew, ard, apa, owremn などの小辞がギリシア語本文の小辞と微妙な差異を示しつつ用いられていることやギリシア語に欠如する代名詞が明示されていることに対しては、談話戦略的な意図が明瞭に認められることを明らかにした。以上の比較分析作業と並行して、古典期アルメニア語から現代アルメニア語に至る談話戦略と談話構造の変化を捉えるために、現代アルメニア語新約聖書の「パウロの名による書簡」についても同様の分析を進めた結果、上記の三つのカテゴリーのうちとくに結束性に関連して、談話構造が古典期とはきわめて異質な手段によって展開されていることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ギリシア語新約聖書の古典アルメニア語への翻訳に見られる談話戦略とギリシア語新約聖書本文に見られる談話戦略の異同を比較分析することによって、古典アルメニア語新約聖書に特徴的な談話構造を明らかにするという目的に向かって、23年度の「パウロ書簡」に続き24年度は「パウロの名による書簡」のテキスト間の厳密な比定作業を順調に進めてきた。その分析により得られた結果を現代アルメニア語新約聖書における談話構造とも比較するという課題も並行して行ってきており、古典期における構造とは著しく異なる構造の観察されることが明らかになった。したがって、アルメニア語新約聖書における共時的・通時的観点による談話構造の総合的研究という目的に関して言えば、当該年度分の実施計画はおおむね達成されたものと判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
当初予定していた「研究実施計画」に基づき古典アルメニア語新約聖書「公同書簡」について談話レベルでの対応関係の同定作業を着実に遂行していく。上記作業と並行して、現代アルメニア語聖書で対応する「公同書簡」についても、古典アルメニア語聖書における談話構造との異同を明らかにしていく。また、現代アルメニア語新約聖書の談話構造の分析に加え、アルメニア人ネイティブ・スピーカーからも直接に談話に関する情報を得るなどして、現代アルメニア語における談話戦略と談話構造に基づいた談話分析の一般理論の構築への可能性も探っていきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初計画していた海外での資料調査・収集を次年度に延期することによって生じたものであり、延期した海外での資料調査・収集に必要な経費として平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
|