研究課題/領域番号 |
23520488
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
藤井 文男 茨城大学, 人文学部, 教授 (40181317)
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キーワード | 言語の普遍性 / 言語の類型 / 言語の系統 / 言語の構造 / 言語の歴史的・地理的変化 / 言語接触 / クレオール化 / フィールドワーク |
研究概要 |
2012年度は本研究実施の二年目に当たり、大枠としては前年度に引き続いてインド・ジャールカンド州州都 Ranchi 市周辺に於ける、現代ムンダ語ナグリ方言を母語とするインフォーマント・インタビューによるデータ収集が中心の活動となった。この言語に対する現地調査は既に前研究の時点で始めているので、本研究は現代ムンダ語の全体像を浮き彫りにする計画の仕上げ部分を構成する。 この年度、研究者は前期にサバティカルを利用し、通常は実施できない5月6月期に第一回目の現地調査を行なった。結果からすると時期的に気候上の問題があったが、この機会を含めてそれぞれ三週間ほどの調査を三回繰り返したことで年度全体としては集中度が高まり、期待以上の成果が上がったと考えていい。 具体的に”取り組んだのは、ナグリ方言に於ける Object Agreement の実態を浮き彫りにすることと、データ上の“揺れから見る「ムンダ語に於ける Agreement の本質解明」である。周知のように、ムンダ語は "Subject Agreement" に加えて "Object Agreement" も有す言語として有名だが、特に後者は同じ動詞語彙を用いながらも“直接目的語”と“間接目的語”の対立を Agreement で明示できるなど、文法的に極めて機能的な構造を持つ。しかしながら、その機能の仕方が如何なるメカニズムに拠るのかがこれまで解明されていたとは言い難く、その実態は前研究の時点はもちろん、前年度の調査をしても手応えを感じさせるだけの成果とはなっていなかった部分がある。 この問題に関してはしかし、2012年度の調査活動を通じて相当程度、解明が進んだと言えよう。部分的には既に公表してきたが、本研究はポイントを「いくつかの頭語構造が“連合”して、ある種の「上位カテゴリー」を形成していると認識すべきであると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は一義的には、いわゆる東インドを中心に行なわれるムンダ諸語が、如何なるメカニズムによって「オーストロ・アジア語族」から分離してその“西部語群”を形成するに至ったかを解明するための基盤構築を図ることを目的とし、そのメカニズムの本質を「クレオール化」とする作業仮説を立て、最終的にはムンダ語の文法構造にその痕跡が残っているか否かを判断するに足りるだけの情報源として、この言語の構造と機能の仕方をフィールドワーク的手法で浮き彫りにすることを主眼として研究に着手した。 現代ムンダ語ナグリ方言に対する現地調査は既に前研究の枠組みでも始めていたが、この言語の(基本的には統辞構造の)実態を明らかにするという基本的作業の推進は当初、困難を極めた。この言語の基本構造の概要は比較的容易に把握できたが、特に Agreement の実態解明に際しては“一進一退”を繰り返した。フィールドワークでは避けて通れない宿命ではあるが、一回の調査活動で収集したデータを元に一般化を試みても、次の調査では“反例”が続出し、調査が振り出しに戻ってしまうのである。 2012年度はその意味で「大きな転機」となったと考えていい。調査活動の高密度化が幸いし、問題点が“風化”する前に不明朗な学術的認識に再検討を加えることができて、前研究で積み残していた問題点を含め、この年度で“解決”するに至ったムンダ語文法構造の“謎”は相当数に上る。昨年度までの研究成果としては「問題と認識できないでいた事態」が問題であったことに思い至れるようになったこと自体、極めて大きな進展であった。(具体的な論点については今後、公表する予定である。) 結果として、本研究では予定していなかった問題まで研究対象が広がることとなったものの、それを含めても全体の70%、当初から計画していた対象に限れば80%以上の達成度を確保していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上掲の「達成度」の欄でも記したように、2012年度の研究活動は当初計画の70%もしくは80%をこなしていると判断できるので、本研究の最終年度である2013年度は当初の予定通り、1) 一般向け語学導入書 Munda Primer の執筆に向け、これまで遅れがちだった語彙の収集を中心とした調査と、2) ヒンディーを中心とした周辺言語がどの程度、ムンダ語の文法構造に“影響”を与えているのか、特に次に計画している研究への接点を意識したデータ収集を図りたい。 その意味では次年度も、基本的にこれまでと同様のフィールドワーク的な現地調査を中心とした研究活動となろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
「次年度使用額」は基本的に、書籍購入に際して若干の納期遅れが生じたことから事務的に発生した部分であり、その大半は2013年度初めには解消されるはずである。また、データ確認の実を上げるべく、2013年度には更に二回の現地調査を組み入れたい。
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