13年度も過去二年と同様、東インド Jharkhand 州に赴いて行なう現地調査が中心だった。ムンダ語との取り組みは既に歳を重ね、この言語に特化した本研究も三年目を迎えて記述の中心だった文法構造は相当部分が明らかになってきており、最終年度はこれまで洩れていたデータの収集に注力し、未解決だった幾つかの構造上の問題解明に焦点を当てる活動を行なった。 具体的には次のような、これまでは茫洋としていた: 過去時制 ("Preterite") に於ける len-/led-“無標”vs. ken-“強調”、他動詞の“自動詞化”による: ked- "Perfective" vs. ken- "Preterite" といった体系的対立構造を明らかにすることで、transitivity はアスペクトの問題のみならず語用論的機能とも大きく絡んでいる実態を浮き彫りにしたし、ムンダ語に特徴的な繋辞の対立 mana-“存在”vs. tan-“同定”も non-topical vs. topical という語用論的対立を体現していると解釈することで極めて整然とした理解が可能となった。また、表層は kul ‘to send’ の如く特段の標示のない動詞語彙も、kitab ‘book’ を“補語”とする場合は Benefactive を対格目的語とできないのに対し、cithzi ‘letter’ が用いられると受取人を対格で表現できるといった“珍妙”な現象も、問題を単純な意味論的考察を超え、統辞体系全体に位置づけることでムンダ語の構造的体系性は極めて整然と浮き上がる。 やはり科研費の補助によって公刊するに至った、この言語が示す文法体系の根幹を成すとも言える文法上の一致に関する単行本と共に、上述したような個別の言語構造上の幾多の謎を解明することで、本研究は当初の目的を十二分に達成できたと言えよう。
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