関係節の実験を行い、日本語の関係節ではワーキングメモリの影響が見られないことが明らかになった。今回の結果は、以前の結果と同様で目的語関係節(「太郎が愛している女性」)より、主語関係節(「太郎を愛している女性」)の方が読みやすかった。ただし、以前の結果とは違い、今回は文脈を使ったことによって、曖昧性などの影響が起きていないのが確認できた。 英語の場合は the woman that まで読めば、確実に関係節が続くことがはっきりするが、日本語の場合は、「太郎を愛している」まで読んでも続きが関係節かどうかがはっきりしない。こういう曖昧性がその後で読み時間に影響する可能性が十分あるが、以前の研究ではこの問題点が解決できていなかった。関係節の解釈を強めるために、次のような文脈を準備した。XさんとYさんは写真を見ながら話しています。Xさんの「この人は誰ですか?」の質問に対して、Yさんは「太郎を愛している…」と答える。この文脈によって、関係節が予測されるのは90%以上であったため、曖昧性の影響は解除されていることが言える。 以上のような文脈を利用して日本語母語話者に実験を行った結果、目的語関係節より、主語関係節の方が読みやすいことが確認できた。また、中国語母語話者の日本語学習者に同じような実験を行った場合でも、主語関係節の方が読み時間が速かった。ただし、中国語母語話者は中国語で実験を行ったところ、目的語関係節の方が速かった。つまり、今回の中国語母語話者は、自分の母語とは違う第2言語の構造を好む能力を持っていることが明らかになった。
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