研究課題/領域番号 |
23520491
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柳田 優子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (20243818)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 続日本記宣命 / 語順 / 格助詞 / 名詞化 |
研究概要 |
上代日本語では、格助詞「ヲ」で表示される目的語と無助詞の場合の2つのタイプの目的語表示がある。Yanagida (2006), Yanagida and Whitman (2009)では万葉集の調査により特定名詞(Specific nouns)は格助詞「ヲ」で表示され、動詞句の外へ移動し、動詞句内の不特定名詞(non-specific nouns)は無助詞で現れると提案した。23年度は、上代日本語の散文資料である、『続日本記宣命』を調査し、Yanagida (2006),Yanagida and Whitman (2009)の仮説の検証を行った。宣命は、名詞や動詞などの語彙範疇は大字で書かれ、助詞や助動詞などの機能範疇は万葉仮名を使って小字で書く、いわゆる宣命体で記されている。しかし、助詞や助動詞などの機能語が万葉仮名で標記されていない場合でも助詞や助動詞を読み添える例が数多くある。しかし、池田(1996)が指摘しているように、宣命にこの「ヲ」格の読み添えがあるかどうかはこれまでほとんど問題にされてきていない。池田(1996)の研究では、続日本記宣命の「ヲ」格表示として、表記例488に対して無表記例125例であり、「ヲ」の読み添えが、本居宣長の『続記歴朝詔詞解』83例、北川和秀の『続日本記宣命 校本・総索引』85例と比較して大きく異なっている。しかし、そもそも、万葉仮名で表記されていない場合、「ヲ」格で読み添えるべきかどうかを判断する明確な基準が存在していない。本研究では、宣命の、1)小書される例と2)助詞「ヲ」を読み添える場合 3)無助詞の場合の3つのタイプの目的語の動詞形態的・統語的環境を調査し、「ヲ」の表示例と無表示例で一般化が得られるかどうかを検証した。検証結果は現在論文にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
(1)当初研究補助として雇用する予定だった大学院生が常勤の仕事を獲得したため、初年度は研究補助不在のままデータ資料の調査を研究代表ひとりで行っていたため。研究補助員として雇用する研究員に高い専門性が必要なため、適任者がなかなか見つからないなどの理由で23年度、研究補助員として雇用することができなかった。(2)研究代表者の本務が多忙なため、海外出張の機会が得られず、海外研究協力者との研究連携に遅れが発生しているため。
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今後の研究の推進方策 |
現在オックスフォード大学で上代日本語の資料を電子化し統語コーパスを作成する国際共同研究チーム(統括オックスフォード大学Bjarke Frellesvig教授)の外部メンバーとして共同研究を行っている。24年度は筑波大学で研究補助員を雇用し、オックスフォード大学で使用している言語解析システムを用いて、上代日本語の散文資料である「続日本記宣命」の電子テキストと統語コーパスの作成を進める。また宣命の主語表示「イ」や目的語表示「ヲ」の分布、格助詞と動詞活用形の関係、また文構造の調査をすすめる。またすでに作成が終了している「万葉集」の統語コーパスをつかって、上代日本語の和歌と散文を形態的・統語的観点から比較検討する。研究成果はオックスフォード大学で開催されるワークショップ等で発表する。また、7月に国立国語研究所・オックスフォード大学共催によるワークショップで、統語コーパスを使用した古典語研究の意義について研究発表をする予定である。現在オランダの出版社から出版予定のThe History of Japaneseの中の上代語の格システムについて執筆中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の主な研究テーマは、上代日本語の散文資料である「続日本記宣命」の統語コーパスを作成し、和歌と散文の形態的、統語的違いを調査することである。また電子データをローマ字化して、日本人研究者だけでなく、海外の研究者が使用できる統語コーパス作成をめざす。23年度は、テキストデータを電子テキスト化するための研究補助員を雇用する予定であったが、タグ付けは、高い英語能力と専門性が要求されるため、適任者が不在のため、研究補助員を雇用できなかった。今年度は、前年度の繰越金85万円と24年度の研究費を使用して、オックスフォード大学で使用してる言語解析システムに精通している海外の大学院生を雇用し、「続日本記宣命」の統語コーパス作成の研究協力を依頼する。具体的には、日本語の電子データをローマ字化し、主語、目的語、動詞活用形などのタグ付けを行う。また、夏期休業中に海外研究協力者との「研究打ち合わせ」のためにイギリス・アメリカ合衆国に出張する。学会活動に参加して、研究成果をできるだけ発表できるように、努力する。
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