本研究(平成23~25年度科学研究費補助金)の出発点となったのは次の疑問である。コミュニケーション行動制御慣用表現の研究(平成20~22年度科学研究費補助金)により明らかにされた日独の対応する場面で発せられる表現における表現形成上の視点(視座)の違いが、同じように対応する場面で使用されるコミュニケーション行動制御慣用表現以外の定型的な表現にも認められるだろうか。もし認められるなら、慣用表現における日独の視点の違いはかなり一般的なものと確認できることになる。 このような疑問に基づく標識・看板・ステッカーにおける言語表現の研究により、標識や看板などの表現においても同様の視点の違いを確認することができた。たとえば、“Wagen haelt”と「つぎ止まります」というバス内の停車表示にその典型例を見ることができる。前者は状況外の客観的な視点からバスに言及しているが、後者は状況内にいる乗客の視点からの表現だからである。このように標識や看板などの言語表現に、コミュニケーション行動制御慣用表現の分析結果と平行する傾向が認められた。 しかしながら、対応する場面において異なる視点の表現が出現する比率は比較的低く、標識27.6%、看板22.9%であった。この結果は、従来の研究が明示しなかった数値であるが、予想外に低い値のように思われる。この原因は調査対象が公共交通機関という場面での機能的かつ意味的に対応する標識と看板表現における定型的な表現に限定されていたためと推測される。そのような場面では表現の共通性が高くなる可能性があるからである。このような成果を平成25年度は国内外のさまざまな学会で発表した。
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