本研究は、中欧のスラヴ系少数民族であるブルゲンラント・クロアチア人、ソルブ人、ルシン人の言語状況と言語意識を、言語接触論や社会言語学の視点から分析した。結果、以下の成果を得た。 ブルゲンラント・クロアチア人は本国クロアチアから500年前に移住し、以来クロアチア語を維持してきたが、20世紀後半以後はドイツ語使用が優勢となり、その結果、言語人口は大幅に減った。この傾向は現在も進行中だが、一方で積極的に言語を習得しようという若い世代もいる。同時に、子供にクロアチア(本国)のクロアチア語を学習させたいとする親もいる。これにはクロアチアの国際的地位の上昇や、観光政策によるイメージ向上などが影響しているかと考えられる。 ソルブ人はスラヴ民族移動期に現在のドイツ東部に移り、その後のゲルマン化によってドイツ内少数民族となった。ザクセンの上ソルブとブランデンブルクの下ソルブに分かれ、このうちブランデンブルクの下ソルブ語は危機的である。現在この言語を家庭で使用するのは、ブランデンブルク全体でわずか10戸という状況である。学校でのソルブ語教育によって“話者”の数は数千台に維持されているものの、家庭での使用がほとんどない言語を、学校教育以外にどう活性化させていくかは困難な課題である。 平成26年度は、ルシン人およびウクライナ人の状況について調査した。ウクライナ人は本課題研究には含まれていなかったが、ルシン人同様、東スラヴ語から南スラヴ語圏への移住という点で共通することから、オーストリア時代にボスニアに移住したウクライナ人の言語について調査した。ここでは、彼らが地元の南スラヴ人に同化されず今日に至った要因として、ギリシャ・カトリック教会への信仰があることを明らかにした。 これらの人々の言語にはいずれも接触言語の影響が現れており、そこには一定の借用階層性が見られることも明らかにした。
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