研究課題/領域番号 |
23520511
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
野上 さなみ 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (80325828)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | ドイツ語 / 意味論 / 動詞範疇 / 語彙化 / 語彙概念 / 対照言語学 / 動作様態 / アスペクト |
研究概要 |
研究の全プロセスを通して明らかにしたい事柄を次の5つのセクションに区分した:【1】現代ドイツ語動詞の語彙化パターンや特色。【2】現代ドイツ語動詞において、語彙化される要素・パターンが動詞範疇の用法に及ぼす影響。【3】他言語の動詞の語彙化パターンや特色。【4】他言語の動詞において語彙化される要素・パターンが動詞範疇の用法に及ぼす影響。【5】動詞の語彙化パターンと動詞範疇の用法の間の連動性に関する包括的な考察。(詳しくは交付申請書の研究実施計画を参照) 平成23年度はそのうち、【1】に焦点を当てて研究を進めた。これを具体的に説明すると、ドイツ語において、様々な意味論的要素が組み合わされて単一の動詞として語彙化される際に、(1)項の意味論的特性、(2)自動性・他動性、(3)運動の概念や方向性、(4)Actionの様態、(5)行為の反復性、(6)時間概念といった諸概念の組み合わせの可否やそれを規定する条件などを明らかにすることを目的としたセクションである。 本年度は動詞の中でも研究対象を「自動詞」に、さらに自動詞の中でも「移動」の概念を叙述することができる動詞に絞り込み、単一の自動詞において「移動」の概念と「様態」の概念が共起できるか否かについて焦点を当ててデータ分析を進めた。分析の結果を簡潔にまとめると、次のようになる:まず、この2つの概念の共起が任意であるのか必須なのかによって自動詞を2グループに分類することができる。さらに、共起が必須とされる自動詞においては、様態の概念を強調する表現が可能であるグループと不可能であるグループに分類することができる。その上で、「移動」の概念と共に自動詞として語彙化され得る「様態」の概念の特徴、すなわち、「様態」概念の語彙化に対する制約を探った。これらの研究内容をまとめたものを、論文の形で学術雑誌に発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
期間の前半は調査・考察の対象となり得る動詞の収集や分類の試みなどに費やすこととなった。その結果として、今後の調査や考察にも有効となるような、データの分析方法や分類のパターンをある程度明確にすることができたので、これらは今後の作業の枠組として有効に使用できると考えている。また、分析・考察の対象を特定の概念に絞った形であるとはいえ、「語彙化における諸概念の組み合わせの可否、およびそれを規定する条件を明確に示す」という本年度の研究の中心的課題はクリアできたので、おおむね順調に進展していると言えよう。さらに、分析によって得られた結論を論文として発表することができたので、研究のプロセスに一つの区切りをつけることができた点は評価できると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、ドイツ語の動詞範疇について分析をするとともに、これを他のインド・ヨーロッパ言語の動詞範疇と比較することで、ドイツ語動詞の特徴をより明確にしようとする対照言語学的な視点が必要となる。つまり直接の対象とするドイツ語の「内部分析」と別言語との「比較対照」という2段構えの構成を取っている。最初の研究計画における本来の手順としては、ドイツ語の動詞について体系的な結論を得てから別言語との比較・対照の作業へ移行するという予定を立てている。しかし、多くのグループに分類されるドイツ語動詞についての調査に時間を要して、進行のペースが遅れ気味になることも考えられる。そのような場合にとり得る方策としては次の2つのパターンが可能であろうと考えている。まず1つ目は、ドイツ語についての分析対象の範囲を狭めて、まずいくつかの特定グループの動詞に関する結論を導き出し、このグループと意味論的に対応関係にある別言語の動詞との対照研究をすぐに行うという方法である。これならば、対象としての分析範囲を狭めることにはなるが、比較対照という分析そのものを行うことが可能である。2つ目は、比較対照という視点からしばらく離れて、ドイツ語動詞の内部でできる限り多くのグループを網羅する形で調査・分析を進め、別言語との対照作業は最少限度にとどめる、という方法である。今後の進行状況に応じてどちらの方策を選ぶかを判断したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は書籍による資料収集と論理的枠組み作りに集中したこともあり、データ収集のためにドイツ語圏に赴かなかった。そのため渡航費用として予定していた金額が平成24年度使用額として計上されることとなった。この次年度使用額では、新たに本研究のために必要となったパソコンやプリンター等の備品の購入を予定している。平成24年度研究費の大部分はドイツ語学・一般言語学・比較言語学・ロマンス語言語学などの研究分野関連書籍や、資料源として、ドイツ語で収録されているDVD作品や、ドイツ語および比較対照の対象とする言語による小説などの書籍の購入に当てることになるであろう。所属機関の業務との関係などによりドイツ語圏への渡航を行わない場合には、旅費として予定している金額を上記の書籍や資料、および備品等の購入のために利用することとする。
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