研究課題/領域番号 |
23520511
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
野上 さなみ 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (80325828)
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キーワード | ドイツ語 / 意味論 / 動詞 / 語彙概念 / アスペクト / 動作様態 / 対照言語学 / 言語類型学 |
研究概要 |
本研究を始めるにあたり、平成23年度から27年度までの研究の全プロセスを通して明らかにしたい事柄を、5つの項目に区分し、以下のようなタイムスケジュールに沿って研究を進める計画を立てた。【1】平成23年度:現代ドイツ語動詞の語彙化パターンや特色。【2】平成24~25年度:現代ドイツ語動詞において、語彙化される要素・パターンが動詞範疇の用法に及ぼす影響。【3】平成26年度:他言語の動詞の語彙化パターンや特色。【4】平成26年度:他言語の動詞において語彙化される要素・パターンが動詞範疇の用法に及ぼす影響。【5】平成27年度:動詞の語彙化パターンと動詞範疇の用法の間の連動性に関する包括的な考察。平成24年度は、以下に述べる理由により、十分に研究時間を確保することがかなわなかったものの、項目【3】の一部に関しての資料収集と断片的な考察を行うことはできた。たとえば、同一場面の叙述に用いられる動詞をドイツ語および他の複数の言語間で対照してみると、自動詞として語彙化している言語と他動詞として語彙化している言語の両方が確認された。平成25年度にはまず、この動詞における「自動性・他動性」という点に着目して、各言語の動詞の語彙化パターンを明らかにしていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、所属学会における役職担当の最終年に当たっていたため、、最終監査や次役員への引き継ぎのための準備などの総括作業にかなりの時間を割かざるを得なかった。さらに、年度末に専攻が主催して実施している海外への学生研修旅行の引率も行わなければならなかった。学会業務と合わせて、長期休業中に実施した2週間の研修引率、そのために通年で実施した準備授業や語学補講など、研究と通常の授業以外に費やした時間は、90分の授業時間に換算すれば6~7コマに相当する。このため、研究に使えるまとまった時間を確保することがかなわず、「成果」の項目で述べたとおり、断片的な考察や資料の収集を行うのが精いっぱいであった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画、つまり5つの項目の取り扱い順序を変更し、平成24年度に取りかかることができた項目【3】を優先して研究を進めていく予定である。全体の進行ペースが遅れ気味になることもあらかじめ考慮に入れ、そのような場合にとり得る方策としては次の2つのパターンを想定しておいた。まず1つ目は、ドイツ語についての分析対象の範囲を狭めて、まずいくつかの特定グループの動詞に関する結論を導き出し、このグループと意味論的に対応関係にある別言語の動詞との対照研究をすぐに行うという方法①である。これならば、対象としての分析範囲を狭めることにはなるが、比較対照という分析そのものを行うことが可能である。2つ目は、比較対照という視点からしばらく離れて、ドイツ語動詞の内部でできる限り多くのグループを網羅する形で調査・分析を進め、別言語との対照作業は最少限度にとどめる、という方法②である。平成24年度に行うことができた作業は、【3】「他言語の動詞の語彙化パターンや特色」に関する基盤的作業に該当するので、平成25年度には引き続き、この項目に関するデータ収集を進め、方法①に沿って「ドイツ語と他言語の比較対照」を優先的に進めていくのが良いと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、既に述べたような時間的な理由で、取り扱う項目の順序を変更せざるを得ず、他言語の動詞の語彙化パターンについての基本的な情報収集とアイディアの構築をするに留まった。この内容は、上記5つの項目のうち、本来ならば平成26年度に取り扱う予定にしていた【3】に相当する。そこで、平成25年度は、当初予定していた取り扱い項目の順番を思い切って変更し、前年度に引き続いて【3】「他言語の動詞の語彙化パターンや特色」を調査することにする。具体的には、複数の現代インド・ヨーロッパ言語の動詞を取り上げ、語彙化のパターンを明示することが目標となる。焦点となる項目をいくつか挙げておきたい。 ① 語彙化における「自動性・他動性」:ドイツ語で何かが「動く」ことを叙述する場合、他動詞bewegen(動かす)に再帰代名詞sichを加えて、再帰表現sich bewegenを用いるのが一般的な方法である。これに対して、同じゲルマン系の英語では、自動詞moveによる単独での表現が可能である。また、ロマンス系言語のうちフランス語では動詞bougerが自動詞・他動詞両方として機能するため、自動詞単独と他動詞の再帰用法se bougerのどちらでも「動く」という動作を叙述することが可能である。このように、特定の同一場面を叙述するにあたって用いられる動詞表現を複数の言語について調査することにより、動詞の語彙化における自動性・他動性のあり方を具体的に示すことを目指す。 ②「移動と様態」の2概念の語彙化の特徴:ドイツ語に関しては、すでに平成23年度に論文としてまとめることができた。平成25年度には、他の言語についてもこの2つの概念の関係性を調査しておきたいと考えている。
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