本研究の目的は、現代ドイツ語および他言語の動詞における語彙化のパターンや特色を明らかにし、それらが動詞範疇の用法に及ぼす影響を探ることであった。 まず、移動を表す自動詞を対象として「移動」と「様態」の概念が共起できるか否か、という点に焦点を当てて調査を進めた研究では、両概念の共起が任意か必須かによって、自動詞は2グループに分類でき、共起が必須であるグループは、様態概念を強調する表現が可能か否かで、さらに2つのグループに分類できることが判明した。その上で、様態概念が移動概念とともに自動詞として語彙化される際に受ける制約を探った。この成果は論文「現代ドイツ語の自動詞における語彙化について」(ニダバ第41号(2012): p.98‐107)にまとめて発表した。次に、知覚動詞の語彙化の特徴とパターンを調査し、この動詞群において語彙化のパターンが多様化している要因や非人称構造が果たしている役割などについて明らかにした。さらに、フランス語およびスペイン語と比較対照することで、3つの言語それぞれにおける知覚表現の語彙化の特徴を示すことができた。この成果は論文「ドイツ語の知覚動詞における語彙化について」(ニダバ第43号(2014): p.1‐10)として発表した。さらに、ドイツ語の慣用表現に継続概念が語彙化される際には、基盤となる「具体的な位置関係」から、より「抽象的な継続状態」が比喩的に導き出される形で表現が成立することを、「ドイツ語の慣用表現における継続の概念について」 ニダバ第45号(2016:p.11‐20)で発表した。2016年度には、移動や知覚以外を表す動詞群も研究対象に加えて、データをより体系的にまとめる予定であったが、時間的な制約もあって論文発表には至らなかった。
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