本研究計画は、中国の清朝に盛んに行われた古文献の字句の校勘をめぐる学問すなわち清朝校勘学の研究の中に位置づけられる。取り上げた古文献は、戦国時代の編纂とされる史書『国語』である。『国語』には清朝の校勘学者や藏書家たちの批校本(題跋、校勘記、校語が書き入れられている版本)が数種現存している。本研究では、『国語』の批校本の書き入れの調査・分析を通して、彼らがどのような原則と手順によって『国語』に校勘作業を施し、その記録を後世に伝えようとしたのかを明らかにすることを目的とした。具体的な成果は以下の通りである。 初年度は、段玉裁『説文解字注』に引かれている『国語』の字句の分析を行い、段玉裁の『国語』の校勘作業における原則と手順について検討を加えた。また清朝における『国語』研究の集大成ともいえる『国語札記』を取り上げ、『国語』の諸版本、黄丕烈、顧広圻、恵棟、段玉裁などの『国語』批校本、『国語補音』『史記集解』など関連資料を参照しつつ、その編集過程及び編集原則を明らかにした。次年度は、『国語札記』の訳注を集中的に作成した。 最終年度はおもに、秦鼎『国語定本』の校勘作業を論じるための基礎的研究を行った。『国語定本』は宋刊明道二年本の重刻版を校勘に用いたはじめての和刻本であり、以後明治に至るまで『国語』の代表的なテキストとして利用された。『国語定本』には、重刻明道本や明刊評本 などによる校勘作業の記録、清朝校勘学者の校語、秦鼎及び江戸時代の漢学者たちの校語や評語などが収録されている。これらの記載は江戸時代の漢学者の校勘作業、とりわけ彼らが明清の学者たちの校語や評語とどの様に向かい合ったかを考える上で重要である。本研究では、『国語定本』の校勘作業の詳細を論じるに先立ち、編者秦鼎が校勘作業に用いた明清刊本についての初歩的な調査を行った。
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