平成26年度は、フランス語において内包解釈と呼ばれているUN Nについて、非特定解釈の不定名詞句UN Nとの比較から考察を行った。稲葉 (2010) は直接目的補語の位置に現れるUN Nについて、特定解釈、非特定解釈と対立する第3の解釈として内包解釈を挙げている。確かに、任意の個体を抽出することができる現実レベルでのNの集合の存在前提があるか否かという点において、非特定解釈と内包解釈の間に違いを見ることはできるが、通常は特定解釈でないものを非特定解釈と捉えるのが一般的であり、また非特定解釈と内包解釈の間に統辞的な振る舞いの違いが見られないことから考えて、内包解釈は非特定解釈の一種であると捉えることが妥当であると言える。しかしながら、非特定解釈と内包解釈をよく観察してみると、内包解釈の方にはUN Nが譲渡不可能な性質を持つという特徴が見られる。さらに、内包解釈のUN Nの例を収集し分析してみると、UN Nが行為を表しているタイプ、UN Nが状態を表しているタイプ、UN Nが人や物を表しているタイプの3つに分類することができるが、すべてイベントという概念に集約すると考えられ、UN Nが安定した存在と結びついていないことが分かる。また、FURUKAWA (1986) は非特定解釈のUN Nに関して、発話時点では非特定的であっても未来の時点において特定的になりうることを指摘しているが、これを時間軸ではなく談話世界の変化として置き換え、現働世界において非特定的であるものが潜在世界においては特定的になると捉え直すことにより、非特定解釈も内包解釈も共通の一つのメカニズムによって説明することが可能となる。以上のことから、内包解釈は一般的な非特定解釈とは異なる側面も持つものの、基本的には非特定解釈との共通点が多く、非特定解釈の中に含まれるものであると考えることができる。
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