研究課題/領域番号 |
23520516
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
佐野 直子 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (30326160)
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研究分担者 |
石部 尚登 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 研究員 (70579127)
木村 護郎クリストフ 上智大学, 外国語学部, 教授 (90348839)
塚原 信行 京都大学, 高等教育研究開発推進機構, 准教授 (20405153)
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キーワード | ヨーロッパ / 言語の「脱領域化」 / 「領域」と「特別な場」 / リテラシーとICT / 移民言語と「伝統的領域的」言語 |
研究概要 |
今年度は、昨年度の調査をふまえてさらにそれぞれの対象調査地において現地調査を行った。また、年度末の3月8日に会合を設け、現在の研究の進歩状況を確認し、現在起きているヨーロッパの「言語の脱領域化」をどのようにとらえるべきか、議論を行った。 研究代表者の佐野は2月10~19日にかけて、ニーム市郊外の、かつての農村と移民の多い都市郊外住宅地域の混在地帯となっている地域の中学において、オクシタン語の授業を行っている中学にて、履修者の言語習得状況や履修動機、言語使用状況などについての調査を行った。 分担者の石部は2月上旬に、二言語併用地域のブリュッセルで教育事項に権限を有するフランス語共同体とフラーンデレン共同体の両教育担当機関を訪問し、それぞれが運営している初等中等教育について、報告書等の情報収集を行った。また、地域別一言語主義の地域において唯一多言語表記を実施している自治体であるワロニー地域のFosses-la-Villeを訪問した。木村は現在本研究の調査地域にサバティカル中で、学校における多言語教育についての調査を行い、とりわけ隣接言語教育の実態を整理した。また2011年からのポーランドとドイツ間の就労の自由化が言語面でどのような影響をおよぼすかについて、地域の経済界をはじめ関係者の見解を収集した。地域の少数言語ソルブ語についても、類縁言語であるポーランド語話者との意思疎通の可能性について、交流に関わってきた人のインタビューを行った。塚原は、バルセロナでの調査(3/19-28)。バルセロナ大学Junyent氏と意見交換および次年度合同研究会実施に向けた検討。カタルーニャ語の社会的状況に関するドキュメンタリー映画制作者Vallsへの言語意識に関する聞き取り調査。カタルーニャ社会言語学資料センターにおいて資料収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、言語の「脱領域性」を把握することそのものの困難が挙げられる。現在、ICTの発達によって言語のあり方がまさに「脱領域化」されているゆえに、言語行動における時間・空間・話者の一致という暗黙の前提が崩壊し、「いつ、どこで、誰が、誰に対して、どのようなことばを使用しているのか」という社会言語学の基本となる問いに、従来の形で応えるのが非常に困難になっていることが原因として挙げられる。 また、昨年度の時点で計画されていた調査の困難があった。「現実の多言語状況」に対応しようとするさまざまな場面についてに各地域において調査した結果、むしろさまざまな(たとえば教育における「学校」など)「ドメイン」というある種の「領域性」をいかに配分し、作り出していくかという問題になっていることが確認された。言語の問題が「政治化・権利化」した時点で、その権利・権限の正当性を「どこ」に措定するのかという問題が生じるために、たとえ「脱領域化」しつつある言語状況であっても、それを「再領域化」「領域の可視化」をする必要にせまられることもあるためである。 また、「伝統的・歴史的」とみなされる少数言語が「脱領域化」しつつあるという問題認識と、「移動してきた」とみなされる少数言語に付与されている「脱領域性」の問題は、完全に分けて扱われており、二つの問題の交差点をどこにおくかについての議論は、従来やりすごされてきたのではないかと思われる。今年度の調査においても、十分に精緻化できていないのではないかという点が確認された。
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今後の研究の推進方策 |
今までの調査やそれを経ての議論によって、「言語の脱領域化」を調査することそのものの難しさが確認された。その中で、ICT上で使用される「脱領域的」な言語使用は、その書記化・可視化が前提となっているが、そのような読み書き能力を前提とした言語能力をどこで・どのように・なぜ身につけるのか、また、読み書きをベースにしたがゆえに「時空」を飛び越える言語使用と、面と向かったface to faceでのコミュニケーションをどのように結びつけるのか、といった問題が確認された。 とくに「政治化・権利化」していないがゆえに、その「領域化」があいまいな諸言語の場合、それがたとえ「伝統的・歴史的」な言語であっても「移動する」言語であっても、地理的な「領域」とも社会的な「ドメイン」とも異なるような「特別な場」を、さまざまな形でその都度形成していくという方法で、その言語使用を保持していこうとする動きが現れているのではないか、という意見があった。リテラシーを前提としたバーチャルなコミュニケーションも、直接的・対面的なコミュニケーションも、このような「特別な場」の生成と維持という問題として議論が可能であり、また、従来全く別の問題として扱われてきた「伝統的・歴史的」な少数言語と「移動する」少数言語の交差点として、このような「場」があるのではないか、という指摘がなされた。今後、このような「場」の問題をどのように調査し、分析していけるかが課題になるかと思われる。 さまざまな地域における移民ネットワークについての国際社会学などの先行研究や、「空間」意識そのものが現在変容しているという点についての議論なども勘案しつつ、「移動する」言語のみならず「伝統的・歴史的」な言語にも現れている、ネットワーク的・祝祭的な「特別な場」における言語使用についての追加調査などを行い、最終年度としての総括を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度においては、すでに実施した調査について、分析に必要となるデータの整形・整理を行い、研究成果としてまとめることが中心となる。そのための必要な書籍代・資料代や、国内での会合を2度程度行うための国内出張旅費が必要となる。また、追加調査が必要な場合は、研究代表者・分担者のそれぞれの調査地への海外調査のための旅費が執行される。 また、2014年2月に、バルセロナ大学において、Junyent氏の研究グループとの合同研究会を企画している。そのための海外出張旅費、現地での会場費などが必要となる。
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