本研究は、伝達意図理解における演繹とアブダクションの脳内機序を、会話の語用論的操作によって実験的に考察した。まず、両推論が惹起する事象関連電位(ERP)を測定し、それぞれの脳内処理に対応するERP成分を特定した。即ち、アブダクションは演繹よりも、潜時約400msの陰性成分(N400)の振幅が大きかった。N400は一般に意味処理の指標と考えられているので、アブダクションの振幅が演繹談話よりも大きかったことは、前者が後者よりも、より複雑な脳内処理を伴うことを示唆する。また、両推論が惹起する脳波の周波数スペクトル分析を行った結果、パワー値の大小は潜時帯、周波数帯域によって異なることが明らかになった。
|