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2011 年度 実施状況報告書

ニューカレドニアの危機言語の文法・語彙記述と言語類型論的研究

研究課題

研究課題/領域番号 23520525
研究機関東京女子大学

研究代表者

大角 翠  東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (10141293)

研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2015-03-31
キーワード国際研究者交流 / ニューカレドニア / 消滅の危機に瀕した言語 / ティンリン語 / ネク語 / オーストロネシア言語 / 文法・語彙記述 / 言語類型論
研究概要

本研究の目的はニューカレドニアの現地調査で収集されたこれまでの資料を文法、語彙の面から分析し、包括的な文法を記述するとともに、現地語‐英語‐フランス語の辞書を編纂すること、また、ニューカレドニア先住民語の文法を世界の他の言語の文法現象と対照し、言語類型論研究を行うことである。 現在、世界の多くの言語がグローバル化など様々な要因により失われつつあるが、多言語密集地帯であるニューカレドニアにおいても公用語のフランス語が生活の全ての場面で使用されることが多く、先住民語は若年世代に十分に継承されていない。本研究の対象とする中南部の言語は特に話者数が少なくこれまでの記録もほとんど皆無であった。これらの言語の多彩な言語現象を明らかにすることは、言語学上大きな貢献であることに加え、世界の言語の特徴を類型的に考察する言語類型論に重要な資料を提供するものである。また、既に研究代表者により記述されたティンリン語文法に加え、ネク語および近隣の言語の文法を記述することは、ニューカレドニア先住民語同士の関係や他のメラネシア地域の言語との関係を解明する手掛かりを与え、比較言語学上も重要である。 平成23年度はこれまでの現地調査(ワウェ部落)で得られたネク語データをもとに、文法の項目別概略およびネク語‐英語の辞書項目の執筆を行った。ティンリン語‐英語の辞書ともに、海外共同研究者の協力によりフランス語訳を執筆した。また、ニューカレドニア民話のフランス語、ネク語訳を完成させた。8月には現地調査を行い、文法の不明な部分や不完全なところ、辞書項目の補充を中心に音声・ビデオの録音を行った。シドニー大学、オーストラリア国立大学ではオセアニア研究資料の調査と収集を行い、海外共同研究者であるANUの研究者と意見交換を行った。帰国後は新たに得た音声資料を文字化し音素・形態素分析を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

ネク語の現地での第一協力者は3、4年前以来病気がちであったが昨年逝去した。第一協力者との仕事を補うため、第二協力者に過去4年間程度協力してもらっていたが、その方も病気で入退院を繰り返したために近年の聞き取り調査は容易には進まなかった。 先住民語を話す人の数は年々減少し、特にティンリン語は250人、ネク語は200人程度の話者しかいないため、先住民部落に滞在して直接住民から調査することは必須であるが、部落内であっても日常的に現地語を使う人は高齢者に限られている。第一、第二協力者のように高齢や病気で動けなくなる場合は多く、調査を予定通り行うことは難しい。 音声資料の文字おこしは複雑な音韻体系を反映して文字に補助記号をつけて表記することが多く、ノートを判読することにも時間がかかる。それをコンピューター入力する作業は複雑で、しかも正確さを要求されるため、そのためにも多くの時間を費やさざるを得なかった。 辞書作成はティンリン語、ネク語の両言語とも現地語、英語、フランス語の3言語で執筆していることに加え、相互参照、複合語や例を丁寧に入れているため、文字数は膨大となり、作業は遅れ気味である。コンピューター入力作業にはアルバイトを用いていたが、仕事に慣れるまでに時間がかかり、また事情により別のアルバイトにひきついでもらったりしたことも作業の遅れにつながった。 研究代表者が整理、分析すべき一次資料がまだ多くある一方で、今年度は当初予定していたエフォートが十分にとれなかったため、研究に遅延が生じたたことも大きい理由である。

今後の研究の推進方策

ネク語文法の記述、ネク語、ティンリン語のそれぞれの3言語辞書編纂のための資料はこれまでの現地調査でおおむね収集し終わった。現在は調査ノート、聞き取り音声資料、その他の資料を文字化を含めて整理し、分析を同時に行いながらコンピューターに入力する作業を継続している。これまでワードで記述していた辞書項目も辞書ツールを用いて変換中であり、加筆、校正を進めながら辞書の体裁を整えて行く。コンピューター入力、フォーマットの変換作業にはアルバイトを使用する予定である。辞書にはそれぞれの言語の概略や文法スケッチも含める予定である。 平成24年8月~9月には文法・辞書の記述に際し欠けている情報、疑問点や不完全な個所を調査するため現地調査を行う。また、オーストラリア国立大学で危機言語・言語類型論研究の研究者とワークショップ等を行う。 ネク語の民話『ネズミのしっぽ』をウエブ上で読めるようにフォーマットを作成中である。また、ニューカレドニア先住民語のデジタルアーカイブにそれを提供したいと考えている。 9月以降はネク語文法の概略、およびニューカレドニアの社会言語情況の概略を書き、辞書の冒頭に入れたい。10月に海外共同研究者が来日し3カ月程度滞在予定であるので、文法・辞書の仏語訳部分の共同研究を行う。

次年度の研究費の使用計画

平成23年度は現地調査のための出張費、調査協力費、収集した資料の分析、コンピューター入力等の作業に対する謝金が大半を占めた一方、当初予定していたノートPCを購入しなかったため、182,865円の残額が生じた。平成24年度には、新しい辞書ツールや音声分析・ビデオ編集ソフトに対応させるため、ノートPC(約200,000円)に加えデスクトップPC(200,000円)も購入したいと考えている。 平成24年度もニューカレドニアおよびオーストラリアで言語調査および海外共同研究者とのワークショップを行う予定である。その為、国際出張旅費(約450,000円)、オーストラリア国内の旅費、言語コンサルタントおよび調査協力者に支払う謝金(200,000~300,000円)が必要である。 国内においても、フィールド資料の整理、分析、コンピューター入力等にともなう謝金が必要となる。その他の支出としては、コンピューターソフト、メモリー等の消耗品費、オセアニア資料・図書費の支出が予定される。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2012 2011

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] The semantic range of the Tinrin verb fwi, with reference to some related morphemes in Neku2012

    • 著者名/発表者名
      Midori Osumi
    • 雑誌名

      Language and Linguistics in Oceania

      巻: vol.4 ページ: 1-25

    • 査読あり
  • [学会発表] The Application of Ryukyuan Linguistics, Commentary2012

    • 著者名/発表者名
      Midori Osumi
    • 学会等名
      The 4th International Symposium on the Ryukyuan Heritage Languages(招待講演)
    • 発表場所
      国立国語研究所
    • 年月日
      2012年3月3日
  • [図書] 言語意識と言語使用の変革、『目指せ!琉球諸語の維持』2012

    • 著者名/発表者名
      大角翠 (下地理則&P.ハインリッヒ編)
    • 総ページ数
      近刊、ページ数未定
    • 出版者
      ココ出版
  • [図書] Pourquoi les rats ont-ils des queues2011

    • 著者名/発表者名
      Midori Osumi (with the illustration by Boston Abe)
    • 総ページ数
      32ページ
    • 出版者
      Fukuinkan Shoten Publishers, Inc.

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公開日: 2013-07-10  

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