研究課題/領域番号 |
23520525
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
大角 翠 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (10141293)
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キーワード | 国際研究者交流 / ニューカレドニア / 消滅の危機に瀕した言語 / ティンリン語 / ネク語 / オーストロネシア言語 / 文法・語彙記述 / 言語類型論 |
研究概要 |
本研究の目的は消滅の危機に瀕しているニューカレドニアの先住民語の談話やテキストなどを聞き取り調査により収集し、音韻、形態、意味等のすべての面から分析し包括的な文法を記述する、また、先住民語‐英語‐フランス語の3言語辞書を編纂することである。更に、その成果を言語類型論研究に役立てる、つまり、これらの言語の文法現象を世界の他の言語と対照し、類型論的考察を行うことを目的とした。ティンリン語文法に加え、ネク語および近隣の言語の文法を記述することは、ニューカレドニア先住民語間の系統、接触関係や他のメラネシア地域の言語との関係を解明する手掛かりを与え、比較言語学上、また、先史人類学上も重要である。 研究代表者はこれまで毎年、ニューカレドニア本島中南部の先住民部落およびヌメアに滞在し調査を行ってきたが、先住民語の若者世代への継承がますます危ぶまれる中、最近ではこれら伝統言語の維持・保存に対する意識が高まり、チバウ文化センター、ALK(カナック言語アカデミー)などの活動により多くの研究、出版がなされるようになった。 平成25年は2月に現地調査、8~9月はシドニーで海外協力者と文献資料の調査および分析、編集作業を行った。海外共同研究者が行ってきたTinrin Grammarのフランス語訳がALKにより出版されることとなりヌメアで打ち合わせを行った。ティンリン語とネク語の辞書の編集作業はデータから新項目を加筆したり、辞書ツールによりフォーマットを整えている段階である。ネク語の文法項目別の分析および執筆は継続中である。ニューカレドニア民話のフランス語、ネク語訳のオンライン版は昨年中に完成させることができた。現在、注釈を加筆中である。12月にはティンリン語、ネク語の情報構造(トピック構造、非人称構文、受動態)についてオーストロネシア言語の情報構造国際ワークショップで学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ネク語の主要な協力者が昨年までに3人逝去し、年々現地で先住民語を母語とする協力者を得ることが難しくなっている。幸いこれまでにかなりの聞き取りによる資料の録音作業は完了しているが、録音部分の文字おこしと、今後の新たな個所の追加や確認の作業をして行く上で母語話者の協力は重要である。先住民語の話者数は統計上は減少がさほど明らかでないが現地調査では母語として日常的に先住民語を使っている人が高齢者に限られてきていることを実感する。 三言語(ティンリン語/ネク語―フランス語―英語)の辞書作成はほとんどの項目の入力は終わったものの、新たなテキストにある語彙の入力とこれまでのノートなどに記した注釈のチェック、細かい文法に関する記述などに時間がかかっている。コンピューター入力作業や校正にアルバイト助手を用いていたが、体調を壊したりまた別の事情で仕事ができなくなり、これも作業の遅れにつながった。英語、フランス語の知識が求められることに加え、複雑な音を表わす補助記号を覚え、読みにくいノートの判読と入力作業に慣れるまでに時間がかかるため、すぐに別の人に交替できないという問題がある。ネク語の文法執筆についても、膨大なデータの量と分析、記述に多くの時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年はまずティンリン語-フランス語―英語辞書の完成と出版、次に、ネク語文法の記述と、ネク語の三言語辞書の完成をめざす。ティンリン語のデータ収集は終了し、現在は辞書ツールを用いた変換作業が7割程度完了、更に未入力のテキストからの項目追加と加筆、校正作業を行っている。辞書冒頭部に含める言語の概略や文法スケッチも執筆の予定。アルバイト助手を使ってできる部分は極力使って時間を節約したい。 ネク語の文法項目毎の整理はかなり進んでいるが、記述にまで至っていない。ネク語の辞書と並行して進めたい。平成26年8月~9月には文法・辞書の記述に際し欠けている情報、疑問点や不完全な個所を調査するためニューカレドニアで現地調査を行う。また、シドニー大学およびオーストラリア国立大学で海外共同研究者と共同研究や出版の打ち合わせ等を行う。Tinrin Grammar (ティンリン語文法)のフランス語訳は海外共同研究者により完成し現在校正中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は現地調査を行うための海外出張旅費と、研究調査協力や資料の整理、コンピューター入力等の作業に対する謝金が大半を占めたが、特にデータの整理、入力、分析、執筆に大きな時間を費やし、協力者への謝金の支払いが増えた。そのため、海外出張旅費の全額が支払えない状態となったので、次年度の予算と合算して執行するため25年度予算の一部を次年度使用とすることとした。 平成26年度はデータの確認、資料の追加のための現地調査(海外出張旅費が必要)と、研究協力者に対する謝金、データの整理、入力等に要するアルバイト助手への支出、さらに、研究成果をまとめるための印刷費等に助成金を当てたいと考えている。
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