本研究ではニューカレドニアの消滅の危機に瀕している先住民語を現地で調査し、語彙、テキスト、民話や会話を録音収集したものを音韻、形態、統語、意味のすべての面から分析し包括的な文法記述を試みた。同時に、先住民語‐英語‐フランス語の3言語辞書の編纂を行った。明らかになった文法現象は世界の他の地域の言語と対照し類型論的考察を行った。 平成26年度はティンリン語文法(Midori Osumi 1995)のフランス語訳が海外共同研究者ブケーにより完成し、カナク言語アカデミーより平成27年度中に出版されることとなった。ティンリン語の辞書項目は辞書ツールを用いたデータに変換し、ティンリン語、フランス語、英語の3言語から参照できるようにした。過去のノート類のデータでまだ未記入のものについては作業は継続中である。ネク語の文法記述と辞書編纂については、毎年のフィールド調査によりこれまでに膨大な資料を得た。音声、聞き取りノート資料のデータはほぼ入力を終え、現在、文法分析、執筆作業を行っている。ネク語の辞書については重複や不明確な点が多々あるので、母語話者と確認作業を継続している。 研究期間全体を通じて研究代表者は毎年ニューカレドニア本島中南部の先住民部落およびヌメアでフィールドワークを行った。また、オーストラリア、日本の研究者と共同研究し、ネク語、ティンリン語の資料を提供しオセアニア比較言語学、言語類型論の分野で大きな貢献をすることができた。ニューカレドニア先住民語の若者世代への継承が危ぶまれる中、伝統言語の維持・保存に対する意識は近年高まってきている。ALK(カナック言語アカデミー)によるTinrin Grammarのフランス語訳の出版はその流れの中で実現可能となった。ティンリン語、ネク語の節構造の研究、情報構造についての研究、所有構造についての対照研究も文法記述の一環として行った。
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