研究課題/領域番号 |
23520527
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
大塚 正之 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (40554051)
|
研究分担者 |
井出 祥子 日本女子大学, 文学部, 客員研究員 (60060662)
岡 智之 東京学芸大学, 学内共同利用施設等, 教授 (90401447)
櫻井 千佳子 武蔵野大学, 環境学部, 准教授 (30386502)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | Ba-Theory |
研究概要 |
場の理論によるコミュニケーションを考えるにあたり、まず、場の理論の射程領域を明らかにすることが必要であると考え、本年度は、この点について重点を置いて研究を重ねてきた。 場の理論は、物理学における場の理論とわが国に古来からある場の考え方(主観と客観とを分けない考え方、自分と他人とを分けない考え方)とを統合し、複雑系における自己組織化のプロセスとしての場という理念との統合を図るものであり、近代社会の要素還元主義的考え方の限界を超えるものとして呈示されてきているのであるが、この理論がそれぞれの対象を異にする学問分野にも適用できるのかという問題意識から、自然科学だけではなく、社会科学、人文科学においても、どのように応用が可能なのかを探ってきた。その結果、この場の考え方は、生物学、経済学、心理学、社会学にも現れてきていることが確認でき、諸科学を通じての基礎理論的な性質を持つことが次第に明らかになってきた。 また、脳科学の分野においても、場の理論の背景による主客非分離、自他非分離の考え方が支持されるような成果が公表されていることが確認され、場の理論と脳科学とが整合性を持つことが次第に明らかになってきた。例えば、ベンジャミン・リベットの実験は、主観と客観とを分けて考える近代的思考法を超えたものであり、場の理論と整合性を持つ。また、ミラー・ニューロンの発見と様々な実験結果は、自分と他人とを分けて考える近代的思考法を超えたものであり、場の理論と整合性を持つことが明らかになりつつある。 また、井出の研究は、談話におけるコミュニケーションにおいて場の理論が有効であることを明らかにしてきている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的のうち、まず、場の理論の内容を明らかにしながら、これが言語学にも応用可能かどうか、可能であるとすると、どのようにしてこれを言語学に取り入れるのかという基本的なところから研究を開始した。本年度は、まず、場の理論がどのような内容を持っているのかについて、言語だけを考えるのではなく、本来の場の理論の考え方を踏まえながら、わが国に古来からある主客不分離、自他不分離の思考と物理学における場の理論の考え方を背景にしながらも、この場の考え方が、生物学、社会学、心理学、経済学などにおいても、有効性を持ちうることを確認することができたのであり、これによって、場の理論が多様な人間関係諸科学にも、有効な役割を果たすことができることが期待できる状況が生まれてきたと言うことができる。 すなわち、近代社会は、個物の存在から出発し、これを分解し組み立てるという要素還元主義に立脚しているのであるが、この近代の思考では説明がつかないことが多く出現しているのである。それは、部分の寄せあつめ、個人の寄せあつめが全体ではないという思考であり、場の中において相互に作用する存在という理解をしなければ、これらの全体性を理解することができないということであり、どのようなものを対象にする場合にも、この点が問題となってきていることが明らかになってきているのである。このような状況を明らかにすることによって、これを場のコミュニケーションに応用する基盤ができあがってきたと言うことができるのであり、初年度の目標である場のコミュニケーションの基礎理論を構築するという目標をある程度達成することができたのではないかと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、このような場の理論を、どのようにして、言語コミュニケーションに応用をしていくのかという視点から更に検討を重ねる予定である。そのためには、これが日本語に特有の理論ではなく、他の諸言語にも通じる基本的な性格を持ったものであることを明らかにすることが必要があり、日本語の研究者だけではなく、世界の言語研究者とも交流を持ち、この場の考え方が、日本語だけではなく、他の言語一般に通じるものであることを明らかにしていくことが必要であると考えている。 今後は、こうした研究成果をホームページなどを通じて英文で公表するとともに、海外の研究者とも連携をして、場の言語学を構築するという視点に立脚して、研究を進めたいと考えている。 そして、場のコミュニケーションを考えるためには、言語的コミュニケーションだけではなく、非言語的なコミュニケーションも図る必要があり、身体的なコミュニケーションと言語的なコミュニケーションとが場の理論において、どのように統合することが可能なのかについても研究を進めたいと考えている。コミュニケーションというのは、言語的情報だけではなく、非言語的な情報ともあいまって密接に関係し合いながら行われるものであり、それらを統合して捉えるのが場の理論の視点であり、主客(心身)が相互に作用する場というものを考えるコミュニケーション理論を考える必要がある。 また、場の理論の持つ基盤を更に確実なものにするため、言語学以外の場の理論の研究者との交流も図りたいと考えている。そうすることによって、より深く言語やコミュニケーションとの関係も明らかにできるのではないかと考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
以上のような研究を進めるため、まず、新たにホームページを開設し、広く研究成果を和文及び英文で公表することにより、この場の理論が日本特有のものではなく、海外の言語にも通じる普遍性を持つものであることを明らかにしていきたい。 また、これらの研究結果を、日本言語学会、日本認知言語学会で発表し、言語学、認知言語学に対し、場の理論が何を寄与できるのかを明らかにしていきたいと考えている。そうした場において発表することにより、反論も踏まえて更に研究の進展を期したいと考えている。 また、海外の研究者との連携、交流を図りたいと考えている。具体的には、カリフォルニア大学バークレー校のウイリアム・ハンクス教授との連携、交流を図り、もし可能なら、次年度に同教授をわが国に招聘し、日本で対談を行いたいと考えているが、これはまだ未定である。 次にコミュニケーションについて身体的な視点から研究をしている研究者と交流することにより、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションとの関係を明らかにし、場の理論によって、この二つのコミュニケーションを統合することができないかについて研究作業を行いたいと考えている。 最後に、場の理論、場の思想について、関心を持っている多様な分野の科学者、科学哲学者らとの交流を図り、可能であれば、これらの方々を招いてシンポジウムを開くことができないだろうかと考えている。これはまだ費用の関係などを含めて今年度に実施できるのかは未定である。
|