ヒトは、どのように言語を獲得するのか。本研究は、現代言語理論(生成文法理論)の枠組みで、言語獲得が学習によって行われるとは考えにくい特性に注目し、特に、1歳から2歳という幼少期において世界の言語に共通して見られる文法獲得段階に焦点をあて理論的実証的研究を行った。 主節不定詞現象は、多くの言語において観察される言語現象である。それはどのような現象で、なぜ起きるのか。これについて言語理論の観点から、なぜ、ヒトの言語獲得の段階において、時制節が欠如するあるいは時制に関する素性が未指定であるという段階が存在するのかといった問を掲げ、それについて理論的実証的研究を行った。 本プロジェクトでは、まずヨーロッパ諸言語や英語、アジアの言語などを対照的に比較し、主節不定詞現象は時制を欠く幼児言語の中間段階として、三つの異なる形態的特徴をもって存在する可能性を示した。いわゆる不定詞であらわれる言語(ドイツ語、フランス語など)、裸動詞であらわれる言語(英語、スワヒリ語など)、そして代理形で現れる言語(日本語、トルコ語など)が三種類のいわゆる(擬似)主節不定詞であるが、さらに日本語においては、オノマトペが英語の裸動詞(三人称単数現在に関する屈折を欠いた形)のような特徴をもってあらわれることを示し、主節不定詞現象の表れ方は動詞の語幹の形態的特徴によって定められることを提案した。さらに、幼児の早期の段階で顕在化する要素には普遍的な特徴があることを示し、主節不定詞現象に対する理論的仮説として、この段階が、Rizzi(1993・1994)の提案した刈り取り仮説によって説明されうる証拠を提示した。
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