研究課題/領域番号 |
23520532
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
大城 光正 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (40122379)
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キーワード | 象形文字ルウィ語 / ヒッタイト象形文字 / 音節文字 / 比較文字学 / カルケミシュ碑文 / カラテペ碑文 |
研究概要 |
象形文字ルウィ語の歴史言語学的研究を発展させるために、同言語資料の精密な碑文成立年代の把握を行ってきた。その基礎的なデータはD.J.Hawkinsの「Corpus of Hieroglyphic Luwian Inscriptions」(2000)に基づくが、同資料の文献学的な精密さに比べて、歴史言語学的考察に援用可能な正確な碑文言語の年代を決定する基準の指標が不明確であった。つまり、その年代決定の示唆的な言語的特徴を先行研究では、initial-a-finalとr-転化に絞って検証したが、今年度は同指標でのカルケミシュ碑文やテル・アフマルを主要な地域とする南東アナトリアの更に東部地域周辺の碑文に加えて、北方シリア地域の碑文(アレッポ碑文、カラブル碑文等)、更に南部のハマ碑文、アナトリア中央地域のキリキア地域のカラテペ碑文、マラシュ地域のマラシュ碑文にも適用したが、これを更に進展させて、より正確な碑文の成立年代の指標として、ヒッタイト象形文字の母音の音節文字表記におけるplene writing(盈記法)の可能性を考察した。つまり、-a-挿入表記(plene writing)のza-a-ziかza-zi(代名詞za-“これ”のpl.nom.com.)の表記上の相違と碑文の成立年代の関連性の検証を進めて、同表記には本来、語中の母音の長さの表出との関係も示唆されるなかで、同表記法の使用頻度が低いのが後期の碑文である蓋然性が非常に高いことをカルケミシュ碑文や上記の碑文等の比較文字学の観点から指摘している。同表記法による言語資料の年代区分の指標としての有用性は、印欧アナトリア語派の同系のヒッタイト語のヒッタイト楔形文字のplene writingと同様の様相(ex.古期文書のku-e-en-ziと後期文書のku-en-zi「彼らが殺す」等)からも推知される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
D.J.Hawkinsの象形文字碑文の翻字翻訳の公刊で音節文字表記の年代別の異字も明らかになり、更に先行研究でinitial-a-finalとr-転化の特徴が年代決定に有用な指標であることも明らかになった。それに加えて、その補強的な指標としてのplene-writingの指標が有用であることが明らかになったことで、ほぼ成立年代が把握できるカルケミシュ碑文から他の碑文の成立年代とその言語的特徴の歴史言語学的な考察がより広範に且つ正確に考察対象となり、最終年度に向けてその成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
先行研究で、カルケミシュ碑文言語のinitial-a-finalとr-転化の特徴の通時的指標の有用性の確立、同碑文地域の前年度の研究での年代確定に加えて、plene writingの指標の有用性も付加することで、カラテペ碑文、マラティア碑文、アレッポ碑文等を含む象形文字ルウィ語碑文の包括的な歴史言語学的研究を進めて、同言語の通時的な観点からの言語変遷を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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