象形文字ルウィ語碑文のカルケミシュ地域以外のアムク、ビート・アディニ、サマル地域から発見された碑文の通時的な言語特徴であるinitial-a-finalとr転化の出現傾向を分析した。同特徴は先行研究のカルケミシュ碑文言語の通時的研究から得た新旧の時代区分の指標となるマーカーであり、この特徴の出現傾向が各碑文言語の成立年代の解明、最終的な象形文字ルウィ語の歴史的研究の全容解明に重要なものと推知したことの検証を行い、結論としては、上記の地域からの碑文言語の両特徴の出現傾向は、カルケミシュ碑文言語から得た指標マーカーとしての信頼性を追認することができた。今後の展開としては、両言語的特徴の出現傾向によって、象形文字ルウィ語の歴史的考察の更なる進展を確証することができた。同様に、象形文字ルウィ語碑文に散見される字体である記念碑体と草書体の碑文成立年代別(上記の両通時的言語特徴による碑文年代の追認を含めて)の混用傾向の考察においても碑文の成立年代が後代になるにつれて記念碑体と草書体の混用傾向が多くなることが指摘できた。更にこの字体の混用傾向のみならず、字体が有する音価についても、音価付与の頭音法(acrophony)、1文字による多音字(polyphone)、[a]音価明示のための字体工夫([a]音価の二重線の象形文字からの転用)、[m]音明示のための4本線付与(「4」示す4本線の象形文字の転用)、現時点では明確な起源は不明のいくつもの同音異字体([sa][ta][za][tu][zi][ha][li]等の音価の文字)の存在もヒッタイト/ルウィ象形文字の通時的な形成過程の結果とみなされる。
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