研究課題/領域番号 |
23520542
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
小島 聡子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (70306249)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 日本語学 / 近代語 |
研究概要 |
本研究は、宮沢賢治の作品、特に口語で書かれたものを中心にその言葉を分析し、彼の語法・文体の特徴を明らかにしようとするものである。その際、方言で生活していた地方の人がどのように標準語を受容したかという観点を重視する。 本年度は、まず、研究上の基礎資料となるデータの整備を行った。具体的には、既存の宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』のテキストを全文検索ソフトに取り込み、検索が容易な形式に整えた。また、宮沢賢治との比較対象とするべく、濱田廣介の童話集『椋鳥の夢』のテキストデータを作成し、同時に全文検索ソフトで検索可能な形に整えた。近代の文学作品については、テキストデータとして公開されているものも少なくないが、底本の問題などから、必ずしも言語研究の資料として使えるものとは限らない。今回、作成したデータは、底本も信頼できる版を利用したもので、近代語の研究の上でも有用なものとなるはずである。 次に、本年度は、上記のデータを利用して、宮沢賢治の『注文の多い料理店』の言葉づかいについて改めて検討した。まず「標準語」と方言との相克に関連して、『注文の多い料理店』所収の「どんぐりと山猫」について、原文と国定読本(第六期)に採録されたものを比較した。国定読本での改変箇所を拾い出し、その背景として考えられる改変の意図・目的を推察し、国定読本の規範意識と宮沢賢治の言葉の非「標準語」的特徴についてについて考察した。 さらに、助詞の使い方について、格助詞「へ」「に」およびいくつかの副助詞について検討した。特に、宮沢賢治の作品において格助詞の「へ」の頻度が高いことについては、東北方言「さ」が関連している可能性があることを指摘した。 近代の方言話者による標準語使用という観点からの詳細な研究として意義深いものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の本年度の計画について、生前未発表原稿についてはまだ取り組んでいないものの、濱田廣介『椋鳥の夢』のデータ作成や、格助詞等についての分析など、その他のところは概ね計画通り進行している。 また、具体的な語法の分析に向けて、コーパスを用いた言語研究の方法などについての研究会などにも積極的に参加し最新の研究方法についての理解を深めている。これらの手法を用いて、宮沢賢治の言葉を分析できるよう準備を進めているところである。 本年度は、研究開始年度として、次年度以降の計画進行のための基礎を固めることを主たる目標として位置付けており、その観点からは、順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
宮沢賢治の生前に発表された作品のうち、まだデータ化をしていないものについてはデータ化する。また、文語資料として「得業論文」をデータ化する。そのほか、順次、生前未発表原稿についても日本語学的な見地からの本文批判を試みつつ、データ化の可能なものについてはデータ化する。 また、データ化した資料を用いて、すでに公開されている他の近代の日本語についてのコーパス類とも比較しながら、標準語の受容度について考察する。助詞・助動詞等の付属語的なもののほか、方言の影響が考えられる語彙についても取り上げていきたい。そのために、方言についての資料を収集・分析も進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
基礎的なテキストデータの作成については、外部に入力を委託する予定である。 比較対象となる同時代の他の童話作家の作品を収集する。なお、次年度使用額については、本年度中に購入が間に合わなかったこれらの資料の購入に充てる予定である。 岩手県花巻市の宮沢賢治イーハトーブセンターに所蔵されている宮沢賢治の生前未発表原稿を実地に検分するため、旅費を用いる予定である。
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