研究課題/領域番号 |
23520542
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
小島 聡子 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (70306249)
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キーワード | 日本語学 / 近代語 |
研究概要 |
本研究は、宮沢賢治の作品、特に口語で書かれたものを中心にその言葉を分析し、彼の語法・文体の特徴を明らかにしようとするものである。その際、方言で生活していた地方の人がどのように標準語を受容したかという観点を重視する。 本年度は、前年度に作成した宮沢賢治・浜田広介のコーパスを用いて、宮沢賢治の言葉にみられる方言からの影響について、助詞の使い方を中心に、さらに詳細な検討を加えた。既存のコーパスのデータと対照しながら統計学的手法も交えて詳細に解析し、同時代の標準的な書き言葉とは異なる宮沢賢治の言葉遣いの特徴の抽出を試みた。その際、同じ東北地方の出身だが在京期間の短い宮沢賢治と、上京して学んだ浜田広介との間に違いが見られるかどうかに着目した。その結果、助詞の使い方に、両者で異なる特徴が見られること、しかも両者とも同時代の言葉遣いとはそれぞれに違っており、それらが方言からの影響による可能性があることを指摘した。標準語普及の初期段階の状況を知る上でこのような詳細な検討は重要であると考える。 次に、本年度は、宮沢賢治と同時代の遠野出身の佐々木喜善の著作『東奥異聞』の本文をテキストデータ化した。これは当初の計画にはないが、浜田広介よりさらに宮沢賢治と方言が近い人と比較する必要を感じたからである。このデータはコーパスとして使用できるよう整えたが、まだ解析まではしていない。 さらに、本年度は、花巻の方言についての戦前の資料をいくつか取り上げ、宮沢賢治の作品(ジャンルを問わず)にみられる言葉遣いと対照し、宮沢賢治の作品が、当時の花巻方言の資料として利用できることを確認した。これまで、自明のこととして取り上げられていなかったところだが、改めて検証したことは意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データとして取り上げた範囲については当初の本年度の計画とやや異なる部分もあるものの、口語作品における格助詞については宮沢賢治の標準語にみられる方言からの影響については明らかにすることが出来た。 また計画通り、方言という観点からの研究に着手し、当時の岩手方言・花巻方言についての資料を収集・解析を開始している。 以上のことから、おおむね順調に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
宮沢賢治の口語については、浜田広介・佐々木喜善のデータ化した作品の用語と比較しつつ、さらにその特徴を明らかにしていく。また、宮沢賢治の口語作品については順次データの増補を図っていきたい。 また宮沢賢治の文語の解析を進めるため、文語の作品についてもデータを作成する。 そのうえで、文語の場合と口語の場合とで、方言の影響の現れ方が異なるものかどうか比較していきたい。 また、方言について、当時の資料やそれ以前の資料を収集し、当時の方言の状況を探る。
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次年度の研究費の使用計画 |
データの作成については、本年度はデータ作成を外部委託にするなどいくつか当初計画と異なったため、差額が生じたものであるが、これは次年度のデータの作成のための費用として使用する予定である。 また方言の調査については、当初計画にある聞き取り調査ではなく、資料の解析を中心に進めていくことを考えており、資料収集と整理のために研究費を使用する予定である。
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