研究課題/領域番号 |
23520543
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 隆 東北大学, 文学研究科, 教授 (00161993)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | 言語運用 / 発想法 / 地域差 / 社会 / 歴史 / 方言形成 |
研究概要 |
本研究は、日本語方言における言語運用面の発想法の地域差と、それに影響を及ぼす社会的・歴史的背景との関連を検討し、その全体像について確実性の高い一定の見通しを得ることを目的としたものである。この目標を達成するために、本年度は次のような研究を行った。 (1)理論的検討:「社会と言語運用の関係モデル」と「言語的発想法」の概念・分類について、理論的な検討を行った。関連科学の知見も取り入れながら、「社会と言語運用の関係モデル」の妥当性を検証した。また、日本語方言の地域差とその形成に関る従来の研究を整理し、そこに言語的発想法がどのように関るかを検討することで、この理論の射程について考察した。 (2)実証的検討:まず、研究文献からの情報の収集・整理を行った。また、既存の調査データの整理・加工の一環として、言語行動の地域差を知るために重要な応答詞について、これまでの全国調査の結果を整理・加工した。とりわけ、動物に対する呼びかけ行動については、人間の配慮的発想法についての重要な手がかりとなるため、東北地方および全国の地域差について考察した。さらに、異なる地域出身の話者たちが接触する際に、言語的発想法の観点から見てどのような違和感が生じるか、東北方言話者や関東・関西方言話者へのインタビュー調査によって体験談を収集した。なお、新たな全国調査調査については企画に着手したが、東日本大震災の影響で実施に至らなかった。 このほか、コミュニケーションの活性度(言語環境)、および、言葉への依存度(言語態度)について実態と意識を探るための調査項目を検討した。また、言語的発想法に影響を及ぼす社会構造について、関連分野の先行研究をもとに情報を収集した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論的検討については、「社会と言語運用の関係モデル」と「言語的発想法」の概念や分類について、一定の見通しを得ることができた。また、日本語方言の地域差とその形成に関して、それらの要因のひとつとして言語的発想法が重要であることを指摘し得た点も大きな成果と言える。さらに、実証的検討として、応答詞の全国調査データを整理・加工し、今後の分析に備えることができた点も重要である。 しかしながら、実証的研究のひとつに挙げていた全国調査が実施できなかったことは、当初の計画からの大きな遅れと言わざるを得ない。これは、東日本大震災による影響が予想以上に大きく、倫理的に見て、東北地方を中心に調査への着手を控えざるを得なかったという事情による。ただし、そのような中で、個別的ではあるが、インタビュー調査により言語的発想法に関る話者の体験談を収集できたのは一定の成果と言えるものである。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、理論的側面としては、「社会と言語運用の関係モデル」および、「言語的発想法」という概念と7つの分類について吟味し、より妥当性の高いものに仕上げていくつもりである。なお、柳田國男が『毎日の言葉』等で展開している生活語研究の視点も本研究に関ることがわかったので、それを理論化することにも力を注いでいく。 次に、実証的側面としては、言語的発想法を抽出するために、既存の資料の整備や新たな調査の企画によって現象面としての言語運用を把握していきたい。言語的発想法という概念自体が新しいものであるため、なによりも、その地域差を具体的に示す実証的なデータの収集・整備が必要になると考えている。 最終的には、以上の理論的検討と実証的検討の結果を総合的に考察することで、言語運用面における発想法の地域差が、社会的・歴史的にどのように形成されてきたかを論じていくつもりである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度は「重点地域調査」を実施することになっており、一部の地域ではそのようにしたいと考えている。しかし、その前提となる全国調査が、本年度、東日本大震災の影響で実施できていないので、そちらを優先的に計画することが先決である。ただし、東北地方の太平洋沿岸部および、福島県の特定の地域を中心に、いまだ調査を受け入れる環境が整わない地域もあるため、慎重に計画を検討する必要がある。それらの地域については、調査を後に回すこととし、調査可能な地域について実施することも考える。 このほか、言語的発想法の全国的地域差に関する既存のデータを体系的に整備し、今後の分析に役立てたい。
|