本研究は、中世後期の日本語資料である抄物資料を、より多くの日本語研究者による多様な研究目的に即した利用を可能ならしめるために、抄物資料成立の場や状況、その言語の性格を解明し、一般にわかりやすく共有できる情報として提供することを目的とした。 最終年度の平成26年度は、研究期間全体を通じて実施した研究成果のまとめとして、『日本語史資料としての抄物資料の特性に関する考察―講述の現場とその伝承―』と『抄物資料と中世日本語研究』の2種の研究報告書を作成した。また、抄物資料を用いた日本語史研究普及の実践として、年度末(平成27年3月)に中国北京師範大学で開催された学術交流会において特別講演「抄物資料と中世日本語研究-抄物資料の口語性に焦点を当てて―」を行った。 次に、研究期間全体にわたる研究の実施実績について記す。本研究は、本欄冒頭に記した目的を達成するために、以下の3つのステージにおける研究の遂行を企図し、それぞれに記す研究実績を得た。 (1)〔抄物成立の場の具体的状況の解明〕 川僧慧済講『人天眼目抄』を精査して論文「抄物が生まれる現場(商量を伴う場合)-東京大学史料編纂所蔵本『人天眼目抄』を例として―」に研究成果をまとめた。 (2)〔抄物における講述文体の口語性の特質の解明〕 抄物資料中の口語的語彙の用例の蒐集と『三体詩幻雲抄』のような取り合わせ抄物(集成抄物)における文体比較を行い、論文「抄物資料におけるオノマトペの役割」及び「古代日本語から近代日本語への変化~現代日本語の特質の形成(授受表現の発達を例として)~」を発表した。 (3)〔抄物資料の利用ガイドの作成〕 当初企図したとおりの「ガイド」を作成するまでに到らなかったが、ガイド的役割を持った前記の2冊の研究報告書を作成し、また、研究期間を通じて韓国(1回)や中国(2回)で抄物資料を紹介する講演を計3回実施した。
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