研究課題/領域番号 |
23520556
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高山 倫明 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 教授 (90179565)
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キーワード | 韻律論 / 字余り / 音韻史 / シラブル / モーラ |
研究概要 |
24年度は、前年度にひきつづき、従来の研究史を総括するための資料の収集と整理、諸情報のコンピュータ入力を行った。基礎資料となる和歌データベースに関しては、とくに与謝野晶子の初期作品から晩年までの作品を重点的に入力し、さらに与謝野鉄幹・正岡子規等による、所謂「短歌革新運動」の前後の諸作品を選択してテキストファイル化を推進した。また、引き続き学会・研究会において意見交換を積極的に行うとともに資料調査を継続した。 以上の作業を通じて以下のような事象を再確認した。すなわち、和歌の字余り句は5音句ならびに結句に多く、結句以外の7音句には相対的に少ないこと(短歌形式にあっては第1句・3句・5句対第2句・4句、旋頭歌にあっては第1句・3句・4句・6句対第2句・5句、長歌にあっては奇数句・結句対偶数句)、その傾向は万葉集から近代初期まで基本的に維持されること、短歌革新運動前後を境にその傾向が消えていること、等である。上記のような分布差は、韻文の持つリズムに由来するものと思われ、またその分布差が消えるのは唱詠から朗読・黙読へといった韻文享受のスタイルの変化と無関係ではなさそうである。 従来、主として古典的韻文を中心に調査・分析が進められてきた字余り現象につき、考察対象を近現代の韻文にまで広げ、古今を通じて一貫する部分と、明らかに変化する部分を慎重に見極め、日本語音韻史、韻律論の立場から、立論の基礎固めを行ったところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
学内業務に多くの時間を取られ、全体として遅滞気味であることを認めざるを得ないが、資料収集、データベース構築、論旨の再検証は粛々と継続しており、最終年度には予定通りの成果をげるべく努力しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き資料の収集・整理、諸情報のコンピュータ入力を推進するとともに、構築したデータベースを活用して従来の研究に再検討を加え、論文を作成する。当該問題をシラビームからモーラへといった「音節構造」の史的変化に結びつけること、あるいは古代的唱詠法との関連で論じることの妥当性を検証し、日本の韻文に通底するリズムや、唱詠から朗読・黙読へといった和歌享受のスタイルの変化を総合し、字余りの史的ダイナミズムを簡潔に描き出す計画である。また、与謝野晶子の作風の変化はそのターニングポイントと重なっており、そこを軸に、短歌革新運動の前後の変化と不変化を慎重に見極めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
謝金:学生アルバイトによる入力作業 旅費:首都圏への調査旅行および学会・研究会での情報収集 物品費:歌論書関係図書の収集
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