日本語学会からの依頼による書評「井島正博著『中古語過去・完了表現の研究』」において、中古日本語のテンス・アスペクト表現全般に亘って評した。そこでは学界全体に向けて議論を喚起したところがある。例えばアスペクトの定義、特に「φ」系アスペクトの指すところが曖昧になりがちなこと。また「地の文」と「会話文」の定義もまた今一度考え直されるべきこと。その他「テクスト論」を視野に入れた文献言語研究の可能性について、賛同の立場で評した。そこでは「虚構(フィクション)」テクストにおける「地の文」について、一部に「普通の言語」ではないとの見方があるが、そうではなくこれも立派な書記言語としてこれまで同様ないがしろにしてはいけないことを述べた。またそのためには「虚構」の「語り手」という存在をどう把握するべきか、言語研究者も正確に認識しておかなくてはならないが、この点は字数の関係上論じられなかった。別稿を準備中。 その他別稿を準備中の事柄として、表現主体の階層性について。「虚構」と「扮装」が異なるものとするモデル化を試みている。古代語のアスペクト表現の形式、例えば「助動詞」のみをアスペクト形式とするか、補助動詞や形式名詞等も含めてアスペクト表現と考えるかということを古代語においても文法化の過程(過渡期)として記述する必要。静的アスペクトと動的アスペクトの両方を見渡したアスペクト体系。 その他、時間推移の表現を論ずるにあたり、言語表現の主体(登場人物を兼ねる)は時間推移と共に自らも変貌してゆくことに関し、認知心理学・哲学等を視野に入れた基礎的な勉強中。
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